男子個人総合で内村航平(26=コナミスポーツク)が前人未到の6連覇を達成した。合計92・332点で2位ラルドゥエト(キューバ)に1・634点差の圧勝。25日の予選の床運動で首を痛めた影響や計18種目をこなした疲労を感じさせない演技で、団体との2冠に輝いた。日本体操協会の選考基準で来夏のリオデジャネイロ五輪代表に決まり、五輪2大会連続の金メダルに向けて1歩を踏み出した。

 優勝が決まると内村は拳を握った。「1、2、3…」と1本ずつ指を開き、最後は両手を使って「6」。場内の大型スクリーンに映し出された、「ダーッ!」とでも叫び出しそうなドヤ顔が、喜びの大きさを物語っていた。「片手では収まらないということを示そうと。団体と個人で日の丸を2度も揚げることができた。今までとは達成感が違う」と笑みを浮かべた。

 大会前、個人総合への不安について「団体で優勝してからの個人総合を経験したことがないことかな」と明かした。しかし、悲願達成によるモチベーション低下はなかった。2日前の団体の鉄棒。G難度の離れ技「カッシーナ」の落下で達成感は吹き飛んだ。「思えばあれは2冠のためのミスだった」と不敵に笑った。

 25日の予選の床運動では頭部をフロアに強打し、首を痛めた。そこからの回復は驚くほどだったと今井聖晃トレーナー(47)は振り返る。施術で頸椎(けいつい)に触れるたびに可動域が広がったという。「筋肉の質は普通で特に柔らかさがあるわけではない。ただ、なぜだか分からないけど、大会が進むに連れて動きやバランスが良くなる能力を持っている」と言う。

 ベテランの域に入っても、疲労がたまる中で、技の精度を保つことができるのは、大会で日を追うごとに反応スピードが上がる肉体があるから。中でも後頭部から鎖骨、肩甲骨にかけての僧帽筋の収縮スピードは驚異的で、全身が素早く締まることで、ひねりや回転の正確性につながるのだという。

 鍛え抜いた肉体に加え、昨年から演技構成全体の難度を上げ、先行逃げ切りのスタイルに磨きをかけたことも大きい。世界でも挑戦する選手が少ない跳馬の「リ・シャオペン」を決めるなど、5種目を終えて2位と1・200点差。鉄棒では「カッシーナ」を回避する安全策を選択できるほどの余裕があった。

 トップの入れ替わりが激しい体操界において、ロンドン五輪を含み7年間にわたって頂点に君臨する内村は「正直、技に関してはこれ以上進化はできないかな」と打ち明けた。次に意識しているのは「体操を通じて人々にどういう影響を与えていくか」という次元を異にしたテーマだ。3度目の五輪となるリオデジャネイロ五輪の代表に内定した不世出のオールラウンダーは本番までの約9カ月で、さらなる新境地を開いていこうとしている。【矢内由美子通信員】

 ◆連覇メモ 内村は12年ロンドン五輪と合わせ個人総合で7年連続の世界一。日本男子団体が60年ローマ五輪から78年世界選手権までの10連覇の偉業に迫っている。他競技では、レスリング女子の吉田沙保里(ALSOK)が世界選手権13連覇と五輪3大会連続金メダルと合わせ16大会連続世界一。自転車男子スプリントの中野浩一は77年の世界選手権から10連覇。柔道では女子48キロ級で谷亮子が93年から03年まで世界選手権を6連覇した。重量挙げ男子の三宅義信は64年東京、68年メキシコ両五輪の金メダルを含め、世界大会6連覇を果たした。

 ◆内村の世界選手権記録メモ 6度目の出場で、11年東京大会の床運動、13年アントワープ大会の平行棒、今大会の団体総合と合わせた金メダルを日本選手史上最多の通算9個。団体と個人の2冠は70年大会の監物永三、74年大会の笠松茂に続き日本選手3人目。最も美しい演技をした選手に贈られる「エレガンス賞」は昨年まで3大会連続で選ばれていたが、こちらは“連覇”を逃した。