2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の新整備計画で、政府は22日、関係閣僚会議を開き、日本スポーツ振興センター(JSC)の大東和美理事長が選定した建築家・隈研吾氏(61)、大成建設、梓設計チームのA案を了承した。大成建設は前計画のザハ・ハディド案でもスタンド工区を担当。蓄積した経験が工費、工期縮減の実現へ信頼性を高め、勝利につなげた。

 有力とみられていたA案が順当に選ばれた。19日の審査委員会での採点は「610対602」(980点満点)と僅差。決め手は実現性だった。審査委員の造園家・涌井史郎氏は「何かあった時どこで救えるかが信頼性。弦がピンと張った状態で計算しているのか、ゆとりがあるのかで判断した」と語った。

 大成建設はザハ案で蓄積したノウハウがあった。8万もの座席を、そう広くない敷地面積に入れ込む技術は「簡単ではない」と建設関係者。スタンドが3層で提案されている点も前計画同様。さらに「前計画の鉄材業者や人材を継続して確保しているのも有利」だったという。前計画の関係者は「ザハ案を白紙撤回するために対案を用意していたのも大成。政府は完全白紙などの危険は冒さない」と語った。

 審査委の東大名誉教授・村上周三委員長はB案が落選した理由を「工事認可がスムーズに取れるのか、資材置き場を使う許可は本当に取れるのかなどの質問を投げた際、不安があった」とした。審査結果の「建築計画」は「42対60」でB案が上だが「工期短縮」では「177対150」とA案が27点も上。村上氏によるとこれらの項目が、紙上ではB案が良く見えるが、実現性はA案が上回ったことを示しているという。絶対に工期を延ばせない状況で、堅実な案が選ばれた。

 隈氏は会見で「東京のグリーンネットワークの要となるような計画」と語り、法隆寺五重塔の「垂木」をモチーフとした「ひさし」については「日本のお寺のような懐かしさを感じていただけたら」と語った。

 新国立の場所は隈氏の通勤経路にあり「大きなものを優しく感じられるような建築を目指した。近隣住民としての意見も反映させた」。暑さ対策は「2、3層の間に送風機能を有している」と自信を見せた。

 公表後、大会組織委員会の森喜朗会長が「B案が良い」「ASEANのどこかのお墓のよう」と酷評したことへは「ASEANのお墓は好きなので」と意に介さなかった。【三須一紀】