男子テニスの世界ランキング5位、錦織圭(26=日清食品)が進化の跡と課題を残し今季を終えた。世界トップへの予感を漂わせる戦いが多かった半面、19日のATPツアー・ファイナルの準決勝で同2位ジョコビッチに完敗するなど一方的な敗戦もあった。トップを奪うには何が必要なのか。亜大教授でテニス部総監督の堀内昌一氏(56)は「さらに速攻に磨きを」と期待を込めた。

 ◇ ◇

 世界のトップ5を維持している錦織には、まだ未勝利の4大大会やマスターズ優勝への道が開けてきている。世界ランクで決まる大会のシードで第4シードまでに入れば、これまでよりもトップ10との対戦が減る可能性がある。体力的に劣る錦織には追い風だ。

 頂点への条件が整いつつある中、錦織はさらに進化を続ける必要がある。より前に出る攻撃的なテニス、つまりベースラインから1センチでも2センチでも内側に入って打ち合うことが必須だ。

 ツアー・ファイナルのマリー戦で見せたように、錦織はラリーの中で低い打点でも、高い打点でも同じ強度のストロークを打って対抗できる。複数の打点で打てる、他の選手にはない技術がある。だから、前に出て打点が高くなっても十分に対応できる。

 前に出ればそれだけ相手のストロークに準備する時間を失うが、同時に相手に脅威を与えられる。相手のリズム、タイミング、バランスを微妙に狂わす。ストローク戦で例えば10回のラリーを8回で決着できれば体力消耗を抑えられる。錦織のストローク戦は間違いなく世界トップ。限界を超えて前に出るテニスは錦織にしかできない。1~2センチの違いが、マスターズ初優勝、4大大会制覇へとつながる。

 No pains, no gains(痛みなしには何も得ることができない)。錦織が4大大会を制すことを誰も疑わないところまで来た。好機をものにするかどうか、17年1月の全豪から試される。

 ◆堀内昌一(ほりうち・しょういち)1960年(昭35)2月1日、東京都出身。日体大で83年ユニバーシアード出場。学生時代から海外での試合経験を積み練習方法やコーチングを学ぶ。85、86年ジャパンオープン出場。日本テニス協会公認マスターコーチ。指導者養成にも取り組んでいる。