下克上は絶対に許さない。世界5位の錦織圭(27=日清食品)が6年連続で16強に進出した。同121位のラツコ(スロバキア)に6-4、6-4、6-4でストレート勝ち。13年全米1回戦で179位のエバンス(英国)に敗れたのを最後に100位以下に、3年半負けなしの30連勝となった。4回戦では4大大会歴代最多17度の優勝を誇るフェデラー(スイス)と対戦。対戦成績は錦織の2勝4敗で、4大大会では初となる。

 絶対に負けない。下克上などあり得ない。球速も球質も手ごろの相手を、まるで練習のように翻弄(ほんろう)した。全く土俵が違う。錦織が世界のトップで戦っているのに対し、相手の主戦場はツアー下部大会だ。「思い切り打てた。グレートな試合だった」と格の違いを見せつけた。

 第1セットの相手のサーブで始まった1ポイント目。いきなりフォアのリターンエースで洗礼を見舞った。この日のコートの球足が、会場内の他に比べ遅めだったことも手伝い「ラリーができた。なるべく早めに終わらせたかった」と強打の嵐。完全に練習の域ともいえる快勝だった。

 13年全米で、当時179位で予選勝者のエバンス(英国)にまさかの初戦敗退を喫した。しかし、敗戦がよほど教訓となったのか、その後は100位以下に負けていない。それ以前は、12年に1敗、11年には4敗しており、13年全米後の安定感が際立って光る。

 さあ、ここ4回戦から「死のロード」ともいえる関門が4人、待ち受ける。その最初が、あまりにも険しい。フェデラーは左膝や背中のけがで、昨年ウィンブルドン後、すべての大会を欠場。世界ランクを17位に落としたとはいえ、4大大会歴代最多優勝の歴史は重い。

 錦織の小さい時からの憧れだった。この日も自分の試合後、食事をしながらフェデラーの試合にくぎ付けになった。「自分が35歳で、あの体で、あのプレーができるのか」。驚きを持って見ていたが、勝負は別だ。チャン氏が13年末にコーチになった時、フェデラーを憧れと口にしたら「憧れも何もない。ネットの向こうは誰もが敵」とたしなめられた。この日の錦織は「普通の平常心でやりたい」と、あくまで敵の1人だと強調した。テニス界の“伝説”を乗り越えれば、悲願の4大大会優勝に向け、怖いものなどどこにもない。【吉松忠弘】

 ◆WOWOW放送予定 21日午前8時55分~、午後4時50分~、WOWOWライブ。男女シングルス3回戦ほか。生中継。放送時間変更の場合あり。