冒頭の4回転ループに続く2本目の4回転サルコーが1回転になった。そのミスをカバーするために、3連続ジャンプに挑んだわけではない。SP7位に終わり、深夜4時ごろまで寝付けなかった前夜、4回転5本を跳ぼうと決めた。SPで失敗した4回転ループの残像が頭から離れず、眠れない。何度も起きてイメージトレーニングを続けた。そんな中で、もう1人の自分がささやいた。「こんな悔しいなら、もう1回(4回転を)やっちゃえよ」。負けじ魂に火が付いた。

 4回転5本の大胆な挑戦で史上初の“勲章”もついてきた。基礎点が1・1倍になる演技後半に4回転ジャンプ3本を跳んだのは史上初。4回転を次々と跳ぶ宇野ら年下に負けじと、今季最後の演技で成功させた。男子に4回転時代を到来させた五輪金メダリストは「誰が初めて、とかではなく、素直にうれしい」と充実感をにじませた。来季、フリーで4回転5本を飛ぶかは「考えなくては」と言うにとどめたが、来季のプログラムを作る上での選択肢を増やした。

 故郷仙台市には14年ソチ五輪金メダルの記念碑が建てられた。16日の除幕式では「五輪金メダルは競技人生で最高峰といえるものかもしれませんが、僕にとっては通過点」と言った。まだ足りない。66年ぶりの五輪連覇というレガシー(遺産)を残す戦いが、これから始まる。【高場泉穂】