<女子テニス:韓国オープン>◇27日◇ソウル

 女子テニス世界155位のクルム伊達公子(39=エステティックTBC)が、96年の東芝クラシック以来、13年ぶりのツアー制覇を成し遂げた。決勝で同23位アナベル・メディナガリゲス(27=スペイン)を6-3、6-3で撃破。史上2番目の年長Vでツアー通算8勝目を挙げた。08年に現役復帰し、今年からツアーにも本格復帰。ここまで本選では1勝もできなかったが、今大会は逆転勝ちの連続で一気に頂点まで上り詰めた。39歳の誕生日を迎える28日、東レ・パンパシフィック・オープン(東京・有明コロシアムなど)で凱旋(がいせん)試合に臨む。

 声にならない声が、ソウルの夕空をつんざいた。勝利の瞬間、クルム伊達は両拳をぎゅっと握る。そして、我を忘れたかのように「キャアッ!」と叫んだ。39歳の誕生日を翌日に控え、自分自身に贈ったプレゼント。「まさかこんな結果になるなんて思っていなかった。本当にテニスを楽しむことができた」。少女のような初々しい笑顔で、忘れかけていたトロフィーの重みを実感した。

 相手は時速170キロに迫るサーブを放つメディナガリゲス。パワーに対して、経験に裏打ちされた展開の読みと、鋭く正確なショットの数々で立ち向かった。第1セット第8ゲーム、相手がショットのアウト判定に抗議。集中力を切らせた27歳を尻目に、このゲームを一気にブレークした。この日の最高のショットは、ネットすれすれを狙った弾道の低いクロス。相手をベースライン付近にくぎ付けにし、観衆のどよめきを何度も誘った。

 第2セットは終盤に粘られ、ボールを追いながら「ハア、ハア」と息を切らした。それでも、集中力は途切れなかった。38歳と364日でのツアー優勝。自身13年ぶりの栄冠は、女子ツアーの歴史にも迫った。68年オープン化(プロ解禁)以降では、83年英国バーミンガム大会でのビリー・ジーン・キング(米国)の39歳7カ月に次ぐ年長優勝。インタビューで年齢を感じさせない秘訣(ひけつ)を問われても「なぜエネルギーが出るのか、自分でも分からない」と笑った。

 昨年4月、「若い選手に少しでも刺激になれば」と、96年以来の現役復帰を表明した。国内中心の昨年こそ勝利を重ねたが、今年から本格復帰したツアーの本戦では、8試合連続初戦で負けていた。脱出のきっかけは「無欲」だった。今回は、この日開幕した東レ・パンパシの練習のつもりで出場。コーチ、トレーナーも帯同しなかった。

 「韓国に来たときには、1勝することが目的だった。それが正直な気持ち」。本人ですら、予想もしていなかった快進撃。確信があったとすれば、夫のレーシングドライバーのミハエル・クルムの「内助の功」だろう。26日の準決勝に合わせて再び韓国入りした夫から身の回りのサポートを受けて、「彼が来てくれたことが大きい。リラックスできた」と話した。

 夜には帰国し、休むことなく、28日にはパンパシに出場する。恐るべき39歳は「自分もどこまでやれるか分からない。マイク(クルム)とは『子供も欲しい』と話している。ケガなくできて、彼のサポートが得られれば、最大で2~3年と思っている」と、40歳を超えても現役続行を宣言。いずれ、キングの最年長優勝記録を抜く日が訪れそうだ。【森本隆】