<競泳:日本選手権>◇6日目◇7日◇東京辰巳国際水泳場

 女子平泳ぎ200メートルで15歳の高校生スイマー、渡部香生子(かなこ、JSS立石、東京・武蔵野高1年)が、ロンドン五輪切符をつかんだ。決勝は150メートルを3番で折り返したが、残り50メートルから猛追。ゴール目前で先行する川辺芙美子(イトマン)をかわし、鈴木聡美(山梨学院大4年)に次ぐ2位に入った。記録は2分23秒56で、五輪派遣標準記録(2分25秒38)を軽々とクリア。1996年(平8)アトランタ大会に出場した女子バタフライの青山綾里(近大付中2年)以来、15歳以下の代表選手が誕生した。

 最後のひとかきで、ロンドンの扉をこじ開けた。残り50メートル。女の執念がぶつかり合った。川辺、金藤が先行する。3番手から渡部が追い込む。鈴木と競り合う形でぐいぐいと追った。鈴木が頭1つリード。渡部は金藤を抜いたが、まだ川辺に届かない。残り10メートルで並んだ。5、4、3、2、1。大型スクリーンに計時された記録の横に「2」の文字が浮き上がった。

 水から上がるといつものポーカーフェース。だが話し始めると顔はクシャクシャだ。涙が止まらない。表彰式で岩崎恭子さんからメダルを首にかけられ「おめでとう」と祝福された。渡部は「死ぬ気でがんばりました。落ち着いて最後の50を上げよう、と思いました」。そして、おっとりした口調で「今までも、これからも、こんな経験ないと思うんで。これを大切にしたい」。20年前のバルセロナ五輪、あの14歳の岩崎恭子の姿が重なった。

 重圧に打ち勝ち、どん底からはい上がった。初戦の3日午前の100メートル予選。泳ぎはバラバラ。ギリギリ15位で通過した。麻績(おみ)隆二コーチは「経験したことのないプレッシャーを感じた」と言う。200メートルに集中させるため棄権する方向で話し合った。だが渡部は吹っ切れた。「クヨクヨしない。いい意味での鈍感力が役立った」(麻績コーチ)。日本代表平井ヘッドコーチも「ダメかと思ったけどよく立て直した」と度胸の良さを褒めた。

 中学1年の秋、右肩を痛め、個人メドレーから肩への負担が少ない平泳ぎに転向。わずか2年半、快進撃が始まった。水の抵抗を軽減するしなやかな泳ぎで、後半伸びるのが特長だ。この冬はパワーアップを図り、泳法も変えた。だが水が合わないと分かると元に戻し、本来の泳ぎで勝負。一時期のスランプを脱した。

 先月は英国選手権に出場。地下鉄に愛用のiPod(アイポッド)を置き忘れた。麻績コーチは「忘れ物を取りにロンドンへ行ってきます」と冗談めかしたが、目は笑っていない。「まだ表彰台は厳しい。でもそこを狙ってやっていきます」。大きな伸びしろを秘めた15歳には、まだまだ可能性がある。【佐藤隆志】

 ◆年少の競泳五輪代表

 15歳以下の五輪代表は96年アトランタの女子バタフライ青山綾里(大阪・近大付中2年=14)以来、16年ぶり。先月まで中学生スイマーとして脚光を浴びたが、今春から東京・武蔵野高に入学。中学生は戦後から数えて過去17人おり、男子は84年ロサンゼルスの渡辺健司(東京・大塚中)だけ。小学生の五輪代表は80年モスクワ大会(不参加)に11歳で選出された女子平泳ぎの長崎宏子(秋田・川尻小6=当時)しかいない。<渡部香生子アラカルト>

 ◆生まれ

 1996年(平8)11月15日、東京都荒川区出身。

 ◆経歴

 4歳から水泳を始め、東京・武蔵野中2年で全国中学総体100メートル、200メートル平泳ぎに優勝。

 ◆大ブレーク

 中学3年の昨年5月のジャパンオープンで50メートル、100メートル、200メートルの3冠。

 ◆マイブーム

 スターバックスの抹茶ラテ。

 ◆宝物

 国立スポーツセンターで練習した際、あこがれの北島康介からもらったスイミングキャップ。

 ◆スポーツ一家

 父桂次さん(50)、母恵美子さん(44)、妹千夏さん(12)。父はアマチュアボクシングの北海道代表でインターハイ、国体出場。母は中学、高校と競泳選手でプロゴルファーも目指した。妹も競泳選手。

 ◆サイズ

 身長164センチ、体重54キロ。