<テニス:全米オープン>◇最終日◇8日◇米ニューヨーク・ナショナルテニスセンター◇男子シングルス決勝

 圭、次こそ優勝だ!

 世界8位の錦織圭(24=日清食品)は、同12位のマリン・チリッチ(25=クロアチア)に3-6、3-6、3-6の1時間54分でストレートで敗れ、4大大会日本人初のシングルス優勝はならなかった。しかし、日本人前人未到の決勝進出で世界ランキングは8位となり、自己最高位を更新しアジア男子歴代NO・1。将来の4大大会制覇を視野に入れた。

 怪物も人間だった。初めて味わう恐ろしいほどの4大大会決勝の重圧。その中で、錦織はもがき、苦しんだ。思うように動かない足。縮こまる腕に、歯がゆさだけが残った。「ここまで硬くなったのは久しぶりだった。最後まで試合に入り込めなかった」。最後は、チリッチのバックが自分のコートを抜けていった。

 対戦成績5勝2敗。3連勝中という過去の数字が、魔物だった。ふりほどいても頭の隅に、よこしまな考えがよぎる。「勝てるというのが少し見えたのも、あまり良くなかった」。ラオニッチ、ワウリンカ、ジョコビッチと、初めてトップ10に3連勝。その度に経験したことのないうれしさと緊張感で「寝付けなく、胸が苦しくもなった」。それが世界を初めてつかみにいく重さだった。

 4大大会の表彰式で、歴史上初めて日の丸が揺れた。その前でコーチや家族に感謝すると、少しだけ言葉が詰まり、英語でインタビューに答えた。「トロフィーを持って帰れなくてごめんなさい」。2万人収容のセンターコートのファンは、大半が錦織の味方だった。その彼らが総立ちで、錦織の2週間をたたえた。

 試合後は、力を出せなかった悔しさで「ぼうぜんとしていた」。しかし、「この悔しさを忘れずに、また決勝に戻ってくる」。4大大会の借りは4大大会で返す。来年1月、全豪で、また4大大会は戻ってくる。「優勝めざしてやりたいです」。

 敗戦は、常に胸に突き刺さる。しかし、胸を張ろう。1916年(大5)の全米で熊谷一弥が、日本人として4大大会初出場を遂げてから98年。約1世紀の時をかけ、ついに初めて決勝に進んだ快挙を生んだのが錦織圭だ。「得難い経験を積んだ。これを次に絶対に生かしたい」。

 今年の4大大会は終わった。しかし、今年の目標はまだある。11月に行われるツアー最終戦ATPツアーファイナルの出場だ。年末上位8人だけが出場できるエリート世界王者決定戦。70年からの歴史で、日本人は誰も出場したことがない。この準優勝で、出場権をかけたレースポイントで、5位につけた。

 今月中旬に一時帰国し、その後はマレーシアオープン(22日開幕)に出場する。29日からは、楽天オープン(有明コロシアム)に凱旋(がいせん)出場だ。悲しんでいる暇などない。「上位8人に入りたい。めげずに頑張りたい」。この日残された1勝は、錦織の次へのステップだ。錦織伝説は、ようやくここから幕を開ける。【吉松忠弘】

 ◆WOWOW放送予定

 ▽10日7時

 錦織圭準決勝、決勝ノーカット放送(WOWOWライブ)▽14日14時

 全米総集編(WOWOWライブ)▽23日13時

 錦織圭ドキュメンタリースペシャル(WOWOWプライム)。