<柔道:世界選手権>◇9日◇女子78キロ超級◇東京・代々木第1体育館

 女子78キロ超級では、杉本美香(26=コマツ)が「オール1本」で金メダルを獲得。世界選手権の同階級で日本勢初の頂点に立った。杉本の優勝で、日本柔道陣の世界選手権金メダルは通算99個となり、10日にも大台に到達する。

 感極まった。畳を下り、引き揚げる通路で杉本が号泣した。勝者の美しい涙に、スタンドから万雷の拍手が送られた。遅咲きの26歳。08年世界無差別選手権以来の代表。やっとつかんだチャンスに期待以上の回答を出し、ロンドン五輪の有力候補にも躍り出た。「うれしい。とにかく前に出ようとしたことが、いい結果になった」。

 技がさえまくった。得意の払い腰を軸に、準決勝までの4試合はいずれも2分以内の1本勝ち。決勝も体格で勝る中国の秦に圧力をかけ続け、4度指導を誘って“認定1本”を奪った。北京五輪金メダルの■文(中国)がドーピング違反により出場停止中(来年11月まで)。今大会の優勝候補筆頭とみられた塚田も準決勝で敗れた。その間隙(かんげき)をぬって、一気に世界女王に上りつめた。

 誕生日翌日の8月28日には、離れて暮らす父啓次さんに電話で「手紙を書いて欲しい」とお願いした。手紙には「目指すところは2年後で、ここは通過点だろうが、押さえておかないといけない。地に足をつけて頑張れ」と記してあった。食べ物と一緒に宅配便で送られてきた“誕生日プレゼント”に、十分な力をもらっていた。

 故障が多く、「これまで4回ほど大きな手術をしている。テーピングは一生手放せない」と打ち明けた。ひざの靱帯(じんたい)や半月板も痛めた。それでも「けがをして分かることもある」と苦難をプラスにとらえて克服してきた。

 関西出身らしく、明るくおちゃめなムードメーカーでもある。塚田、薪谷翠(引退)ら78キロ超級の5人で「チームD」を結成。チーム名の由来は杉本いわく「“デブ”のD。チームに入れば、くさくないデブと認定されます」と笑う。おそろいのチームTシャツも作るというから、本格的だ。

 166センチ、100キロ。この階級では決して大きくない。ただ杉本には「ニッポン柔道」らしい技のキレがある。13日の無差別級では2階級制覇を目指す。塚田が君臨する日本女子重量級エースに、堂々名乗りを上げた。【大池和幸】※■はにんべんに冬の下がカタカナの「ン」