NHKは6日、野球賭博問題で揺れた大相撲名古屋場所の生中継を行わないと発表した。福地茂雄会長(76)は、中継に反対する視聴者の厳しい声が多いことに加え、相撲協会の改革の具体的道筋が見えていないことを理由に挙げた。相撲協会の改革の進展次第では、中継中止が継続される可能性もある。だが、相撲を楽しみにしている視聴者のため、取組終了後の午後6時台にNHK総合と衛星第2で約20分間、ダイジェスト版の形で幕内以上の取組を放送する。

 1953年(昭28)から続く長い大相撲のテレビ中継の歴史の中で中止という前代未聞の事態となった。

 NHK福地茂雄会長は東京・渋谷の同局で会見を行い、「改革の方向性など具体的な道筋が見えていない」と、相撲協会側の再発防止策が明確ではないことが、中継中止を決めた理由だと明言した。

 中止は今回限りとはしたものの、希望的な側面が強い。次の場所も「そういう状況であれば」と、改革の進展がないと中止継続を示唆。さらに「取り組みが遅れれば、四方八方から次の場所もするべきじゃないという声が出る」とした。そのまま放送したのでは「日本相撲協会の軌道修正がどこまでできるか分からない」と、相撲界への不信もつのらせた。視聴者目線からすれば当然とした今回の措置を、来場所も継続する可能性もある。

 NHK幹部の間には「(中継)再開のためには相撲協会が抜本的に改革される必要があるが、それがすぐに実現されるとは思えない」と危ぶむ声も強い。

 この日、相撲協会の村山弘義理事長代行らがNHKを訪問し、今後の中継の要請と今後の改革に向けた方針を説明した。代行と会い、会見にも同席した今井環理事は「代行というのはどういう意味かと質問をすると、任期は名古屋場所だけで、謹慎が解けたら元に戻ると言った。通常なら一定の結論が出るまで続けるのが筋ではないかと申し上げた」と、改革への懸念材料を挙げた。日向英実放送総局長もガバナンスで見えない点が多いとし、「最終的に会長が判断した」と説明した。

 NHKには6月14日から7月5日まで、視聴者から1万2600件もの反響があった。中継に反対が68%、賛成は13%。その後、5日深夜0時から6日正午までは約300件あり、反対58%、賛成33%だった。

 福地会長は「6割以上の中止の声はかつてない厳しいもの」とし、相撲協会には「待ったなしの改革と強く要望する」と語った。これまで元横綱朝青龍関の問題など放送をやめてほしいという視聴者の投書が4回あったという。今回との違いは数だとし、「これだけの声は大変なものと思う」と語った。さらに「相撲ファンの視聴者の声を代弁している」と説明した。

 中継に反対の声が多い一方で、中継を楽しみにしているファンもいる。福地会長は「見たいという声もあり、村山代行から改革に取り組みたいとの熱心な話も聞いた。そういうことを考え、午後6時台からダイジェストで放送する」と述べた。村山理事長代行には会見前に電話で連絡し、「厳しい中、そこまでやっていただいて」とお礼の言葉があったという。

 通常場所で深夜1時ごろから20分間放送している内容とほぼ同じ。取組終了後、幕内の全取組を放送する。衛星第2でも同内容で放送し、ラジオでは結果だけを放送する。中継に反対の声もある中、福地会長は「苦渋の選択」とした。