<大相撲名古屋場所>◇4日目◇14日◇愛知県体育館

 阿武松部屋が4日目にしてようやく初日を出した。3日目まで出場した力士が全敗。この日2人目の西序二段114枚目の幕張(25)が、寄り切りで奈良(21)を破って連敗を17で止めた。床山1人と力士8人が謹慎処分を受けるなど野球賭博の“震源地”とされてきた同部屋。監督責任を問われ謹慎中の阿武松親方(49=元関脇益荒雄)が、初めて胸中を明かした。

 長いトンネルに光が差し込んだ。阿武松部屋勢この日2人目の幕張は、慎重に相手の動きを見ながら、最後は寄り切り。部屋の連敗を17で止めた。「力の限り頑張った。土俵に上がれるだけでもありがたいと思って取った」。当初は部屋全体の謹慎を勧告されただけに、大きな1勝だった。

 けいこ不足が響いた。場所前は毎日5~6時間と、屈指のけいこ量を誇る部屋が、まったくできない日も少なくなかった。幕張の後も5連敗し、会場からは「阿武松はダメだな」と、厳しいヤジも飛んだ。この日も2勝8敗と勝率は低かったが、もう1人白星の藤本は「最後はみんな勝ち越せれば」と、巻き返しに意欲的だ。

 場所中のけいこは午前6時に始まり、3~4時間行われる。それでもNHKの中継中止の影響で、謹慎中で会場に来ることができない阿武松親方が、弟子の取組を見ることはできない。

 阿武松親方

 取組を見れば「気持ちで負けている」とか、その時の精神状態がすぐ分かる。指導ではそういう難しさもありました。

 愛知・尾張旭市の寺院に宿舎を構える部屋では、謹慎中の阿武松親方や力士が毎日、夕食前に住職らの講話を1時間聞いている。毎日のそうじも欠かさない。謹慎者は1歩も外出せず、場所に出る力士もコンビニなどへの寄り道も禁止されている。7日には警視庁の家宅捜索も受けた。

 宿舎には初日の11日、寺院の信者から壁新聞のような寄せ書きが届けられた。親方や所属力士全員の顔写真と「目指せ横綱」などと書かれたメッセージに、涙を流す力士もいたという。

 阿武松親方

 本当にありがたいです。だからこそ見抜けなかった自分の甘さを反省しています。思い返せば、部屋で野球をテレビ観戦していても異様な盛り上がりでした。野球賭博というものの存在を知っていれば「これはおかしい」と、気付いたかもしれません。

 阿武松親方は人一倍、近年の不祥事続きの相撲界に危機感を抱いていた。

 阿武松親方

 まさか被告席のど真ん中に座る日が来るとは思いませんでした。もう1度、同じ過ちを繰り返したら部屋はない。今回のことを糧にできなかったら、私は師匠失格です。

 阿武松部屋にとっての再起は、この日の白星から始まる。【高田文太】