<大相撲春場所>◇5日目◇15日◇大阪府立体育会館

 鳴戸部屋から、第3の男が台頭した。東前頭7枚目の高安(22)が、東前頭6枚目松鳳山(28)を突き出しで撃破。横綱白鵬(27)関脇鶴竜(26)と並び、無傷の5連勝とした。故・鳴戸親方(元横綱隆の里)の指導を受け、兄弟子の若の里(35)稀勢の里(25)に鍛え上げられた新鋭が、優勝争いに顔を出し始めた。

 左右の突きを、速射砲のように繰り出した。休まない。高安が押し相撲対決を制し、5つの白星を並べた。「立ち合いだけ考えて、あとは感覚で、流れで取ろうと思った。自分のペースで運ぶことができて良かったです」。色黒の顔を緩ませず、淡々と勝負を振り返った。

 入門は7年前。10年九州場所で十両に昇進した時は、平成生まれ初の関取として話題になった。以降の7場所で負け越しは、先場所だけ。今場所前、2月28日の誕生日には、稀勢の里から「ぶつかり稽古のプレゼント」を贈られるなど、兄弟子たちも一目置く実力は、結果になって表れた。

 今場所から、先代師匠の現役時代と同じ、深緑の締め込みを付け始めた。急逝から約4カ月。今も千葉・松戸市の稽古場のドアがガラッと開くと、親方かと思い、体が硬直する。時には夢に出てきて怒られる。体に染み付いた先代の教えは今も忘れず、土俵に生きている。

 日ごろ、三番稽古で鍛え合う大関稀勢の里は、弟弟子についてこう言う。「何やるか分からないからね。いい稽古相手になっている。変な残り腰があるし、出足もある。多分、オレより足腰はいいんじゃないかな」。かつては若の里の付け人を務め、相撲に取り組む姿勢もじかに学んだ。幕内で活躍できる下地は、徐々に出来上がった。

 平幕で勝ちっぱなしは高安だけ。「本当に体が動いていますし、反応もいいので、集中力を切らさないように、まだまだ長いですから、集中して取り組みます」。十両に昇進した時、先代は「噴火中の火山のよう。勢いがあるし、どのような形になるかはこれから。未知数の可能性がある」と評していた。マグマのようなエネルギーは体中に満ちあふれている。【佐々木一郎】