松坂はよくグラウンドに帰ってきたし、よく粘って2点に抑え込んだ。元気のない阪神打線とはいえ、5回4安打2失点は十分な合格点。まだ先発ができる。もちろん首脳陣は次のチャンスを与えることだろう。

松坂の真骨頂は同点に追いつかれた3回なお2死満塁で、陽川を見逃し三振に斬った場面によく出ていた。何回も首を振って外角高めにズバッと140キロのストレート系のツーシームを投げ込んだ。通常、1-2と追い込んだら打者は当然真っすぐ系にタイミングを合わせてくる。投手は決め球に真っすぐ系を選ぶのは勇気がいる。捕手の木下拓もビックリしたんじゃない? 松坂は前の打席も含め、陽川が真っすぐを狙っていないと読んだのだろう。そして陽川はぴくりとも動かなかった。他の打者も同様に読みを外され、凡打の山を重ねた。松坂のキャリア、鋭い観察眼が生んだ見事な頭球術だった。

右肩を故障した影響で、ワインドアップから大きく体を使い、反動を利用してボールに力を伝えていた。ただ走者を背負ったセットではその反動が使えない分、苦しい投球になった。だがピンチになっても顔に出さず、堂々としたマウンドさばきは本当に大したもの。1点はやっても2点目はやらない。かつてのように力でねじ伏せる投球はできないが、ニュースタイルの“頭球術”が大きな武器になる。(日刊スポーツ評論家)

同点で迎えた9回裏中日1死満塁、アルモンテが打席に入り、祈るようなしぐさをみせる松坂(中央)(撮影・前田充)
同点で迎えた9回裏中日1死満塁、アルモンテが打席に入り、祈るようなしぐさをみせる松坂(中央)(撮影・前田充)