勝利の瞬間、言葉にはならないような感激があった。得点差こそ1点だが、メジャーの一流選手がズラリとそろう米国を相手に快勝したという実感がある。日本野球の「成長」を存分に感じられる大会だった。

最終回、大谷が登板した。先頭打者のマクニールに対し、フルカウントから低めの真っすぐがボールと判定された。正直、嫌な感じがした。得点差は1点だし、先頭打者への四球。この状況で際どい球をボール判定されると、どうしても制球が甘くなりやすい。低めに投げなければいけない変化球にしても、投げにくくなるという心配が大きくなった。

そんな中、1番ベッツに外角の真っすぐを2球続けてセカンドゴロゲッツー。力勝負でねじ伏せた。最後のトラウトにも初球はスライダーがボールになったが、その後は真っすぐを4球も続けた。特に2球目と4球目はど真ん中へ、160キロの球威で空振りを奪った。フルカウントからはすさまじいキレのあるスライダーで空振り三振に打ち取った。

なんという頼もしさ。ストライクゾーンが狭くても、トラウトを相手に力勝負でねじ伏せられるという投球だった。試合終盤はブルペンとベンチを行ったり来たりしなければいけない状況の中で、圧巻のピッチングというしかない。

攻撃面でも「パワーの重要性」を痛感した。今大会で不調だった村上が、1点をリードされた直後に同点ソロ。準決勝でセンターオーバーの逆転サヨナラツーベースを放っているが、他の打席の内容は悪かった。決勝で内容が良かったのも、この打席だけ。それでも長打力のある打者は、1本の長打で試合を左右する一打を打てる。

投打にわたり、栗山監督が思い描いた通りのパワー野球が実践できたのではないだろうか。「国際大会では変則投手が有利」という声もあるが、プロ入り3年目の本格派、中日高橋宏をメンバーに抜てきしている。

その高橋宏が5回からリリーフし、2死一、二塁のピンチを招いた。メジャーを代表するホームラン打者のシュワバーを迎えて3ボールになったが、ど真ん中の154キロの真っすぐでセンターフライ。打ち損じに助けられた感はあるが、ストライクゾーンで勝負できる高橋宏だからこその結果だった。

野手の人選もパワーヒッターをそろえた。準決勝で同点3ランを打った吉田にしても、今試合で3点目のソロを放った岡本にしても、ホームランの価値の重要性を改めて感じさせた。日本では「守備力」を重視した「スモールベースボール」が好まれる傾向が強いが、そんな声をねじ伏せるようなパワー野球だった。

一方の米国は、日本では当たり前の戦術面のきめ細かさはなかった。2回1死満塁でヌートバーを迎えた。変則左腕のループがリリーフし、内角へのツーシームで2ストライクに追い込みながら、3球目も同じコースへ同じ球種を選択。追い込んだ時点で三振狙いに切り替えるべきだが、淡泊な3球勝負。ボテボテの一塁ゴロだったが、三塁走者は生還した。

6回2死一塁から山田が盗塁を決めても外野のポジショニングは前進しなかった。得点には至らなかったが、シングルヒットで簡単に追加点を奪えた。日本野球はパワーという点でメジャーとの差を詰めているが、きめ細かさという点でメジャーは変わっていなかった。そういう差が出たのだと思う。

まだまだコンディションを整えたベストメンバーで対戦すれば勝ち目は薄いと思う。ただ、今回の優勝は第1回、第2回の優勝とは違う。メジャーとの差が縮まったと感じられる優勝だった。球界発展に向け、大きな意味がある優勝だった。(日刊スポーツ評論家)

日本対米国 米国に勝利し優勝を決めた大谷は帽子を投げて歓喜する(USA TODAY)
日本対米国 米国に勝利し優勝を決めた大谷は帽子を投げて歓喜する(USA TODAY)
栗山監督(手前)と抱き合うヌートバー(USA TODAY)
栗山監督(手前)と抱き合うヌートバー(USA TODAY)
日本対米国 4回裏日本無死、左越えにソロ本塁打を放つ岡本(撮影・菅敏)
日本対米国 4回裏日本無死、左越えにソロ本塁打を放つ岡本(撮影・菅敏)
日本対米国 2回裏日本無死、右越えソロ本塁打を放ち打球を見つめゆっくり歩き出す村上。投手ケリー(撮影・垰建太)
日本対米国 2回裏日本無死、右越えソロ本塁打を放ち打球を見つめゆっくり歩き出す村上。投手ケリー(撮影・垰建太)