日本野球からメジャーに移籍し、漫画の主人公のような活躍を続けている大谷だが、ここまで“出来過ぎ”な主人公は漫画の世界でも成り立たないと思えてしまう。
WBC開幕戦の第2打席。1死満塁の場面で、いきなり満塁ホームランを放って度肝を抜いた。
つくづく、大谷は「同じ人間ではない」と確信した。そう言えるのは、この打席までの経過を見れば明らかだろう。
3月2日と3日に行われた強化試合で5打数無安打。真っすぐには差し込まれ、変化球を打ち損じてのノーヒットだった。しかも2試合目はたったの2打席で途中交代。並の選手なら「もう1打席ぐらい打ちたい」と思うものだが、あっさりと引っ込んでしまっていた。
大谷クラスの選手なら、打席に立つか立たないかは任せられている。結果は出ていなくても、いつでも打てるという自信があるからだろう。
これは私の個人的な感想ではない。前回のWBC強化試合でコーチを務めていた城石コーチからエピソードを聞いていた。
その試合では、本人からの申し出で4塁打で交代することになっていた。しかし最初の打席で片膝をついてバックスクリーンにホームラン。城石が「本当にこれで終わりでいいのか?」と尋ねたところ「う~ん」と考えた後、もう1打席だけ入ることになった。そしてバットを折りながら、2打席連続のホームランを放った。
常人の感覚では計り知れないのが、大谷という“生物”なのだろう。今試合の初打席は初球の真っすぐをいきなり二塁打。甘いコースとはいえ、強化試合で差し込まれていた真っすぐを難なく捉えていた。本塁打を打った打席でも、カウント1-1から外角高めの真っすぐを余裕をもって見逃していた。
ギリギリのコースだったが、しっかりと見切って見逃すから、ストライクと言われるかもしれないコースでも「ボール」になる。実際、この試合の球審は高めのゾーンが広く、他の打者はストライクに判定されていた。見逃し方の違いからくる「差」になっていた。
どうしたらこのような感覚になるのか考えてみたが、おそらくスピードに対する感覚が違うのだろう。自分と照らし合わせて想像すると、私が150キロ以上に感じる真っすぐは、大谷にとって130キロぐらいにしか感じていないのだと思う。
試合で対戦する投手が130キロのスピードしかなければ、結果が出ていなくとも焦らずに打席に立てると思うからだ。
不安といえば、あまりの格の違いに今後、勝負してくれるかが心配になる。たとえ満塁であっても、敬遠されそうな気さえする。(日刊スポーツ評論家)




