23年春、プロ野球日本ハムのボールパークが北広島に誕生すると、北海道の野球界はどう変化するのか。アマ野球関係者の声を集めると、大学、高校世代だけではなく、野球少年や、これから野球を始める子どもたちに至るまで、多くの好影響や期待が感じられた。本拠地移転で北海道日本ハムファイターズが誕生した04年に匹敵する、あるいはそれを超えるかもしれない、大きな変革のときが迫っている。

元駒大苫小牧監督として北海道の高校野球シーンを彩った西部ガス香田監督(撮影・中島宙恵)
元駒大苫小牧監督として北海道の高校野球シーンを彩った西部ガス香田監督(撮影・中島宙恵)

■ポスターに衝撃

かつて北海道の老若男女を熱狂させた駒大苫小牧の元監督で、現西部ガス香田誉士史監督(48)は、昨年12月に訪れた北海道で1枚のポスターに心を奪われた。日本ハムが建設を予定しているボールパークの告知。思わず、足を止めた。「衝撃的だったね。夢みたいな球場、空間。完成予想図を見ただけで、野球少年の頃のようにわくわくした」。ときめきに、胸が高鳴った。

日本ハムが本拠地を北海道へ移したのは04年。「野球途上国の北国にプロチームができたことが、すごいと思った」。現在では恒例になりつつある、センバツ出場校による札幌ドームでの練習。駒大苫小牧時代に経験した香田監督は、プロのグラウンドで跳ねる高校生たちの変身ぶりを、今でも覚えている。「真冬でも野球ができる感覚になれたのが、うれしかった。それまでは、冬に屋外でプレーできないことが、どこかで『関東や関西に劣っている』という意識につながっていたから」。九州出身の同監督が感じていた、北国の高校球児たちが持つ劣等感は、プロ球団の誕生で確かに変わった。

同様の、いやそれ以上の変革が期待される。ボールパーク内には、サブグラウンドが設置される構想もある。メイン球場が開放される機会もあるかもしれない。星槎道都大の二宮至監督(66)は「サッカーのJヴィレッジのように、サブグラウンドに付帯して安価で泊まれる合宿所があれば、稚内や網走の方からも野球をしに来ることができる。北海道野球界全体の発展につながるのかなと思う」。高校野球指導と並行し、約20年間子どもたちにも野球を教える旭川大高の端場雅治監督(50)も「そういう環境ができれば、そこでプレーしたいという子どもも増えてくる。野球人口が減っているというけど、やりたい子はけっこういる。野球ができる公園がないとか、教えられる人がいないとかで、気持ちを抑えている子も多いから」と、アマ野球界の裾野が広がることを期待している。

現実的に考え、アマチュア選手たちが日常的に天然芝球場を使うことは、メンテナンスの面からは難しいかもしれない。だが北海高の平川敦監督(48)は「札幌ドームの稼働率や利用料が下がれば、アマ野球のチームが利用できる機会が増えるかもしれない。(日没が早い)秋の大会で使うということも、もしかしたらあるかもしれない。高校生が札幌ドームを使いやすくなれば、それによって小、中学生が円山を利用しやすくなり、北海道全体としての野球環境はよくなるのではないだろうか」と話す。ボールパーク誕生の波及効果は、各世代にとって大きいと見る。

息子を持つ香田監督は「ぜひ、行ってみたい。テーマパークみたいで、子どもも喜びそう」。ボールパークにあこがれ、野球を始める子どもたちが増える。観戦に訪れ、元気をもらうファンがいる。明るい未来が、広がっている。【特別取材班】


■校舎がボールパーク予定地に隣接する北広島高・森田有監督(43)

北広島高の森田監督(森田監督提供)
北広島高の森田監督(森田監督提供)

「グラウンド周りをランニングさせると、新しい道路の建設工事が始まっていたり、一気に景色が変わった。すごいものが来るんだということを、私含め子どもたちもひしひしと感じている。昨年12月には市内で行われた講演会に部員を出席させ、ボールパークへの要望などを意見させてもらったこともあった。大きな事業が身近で始まり、子どもたちが、市や球団の方と話をする機会が増えた。野球だけでなく、広く教育という面で、子どもたちが成長するための貴重な経験になっていると思う。球団や市からは高校生ら若者の意見を求められており、そういう視点を建設に反映してもらえたら、きっと地域と共存したいい施設になるのではないかと思う」


■ボールパークで変わる北広島の未来


ボールパーク建設予定地周辺を日本ハム担当の山崎記者が歩く「純さんぽ」。今月は、北広島の未来について考えさせられました。

例年に比べ雪が少ない北広島。今春から本格的な着工を予定しているボールパーク建設にとっては、いいタイミングになったのかな…。そんなことを思いながら市役所周辺を歩いていると、焼きたてパンのいい香りが。かわいらしい趣きの「ブーランジェリー アン・ユイット」。なんともアットホームな雰囲気に癒やされます。

北広島市内にあるブーランジェリー アン・ユイット(撮影・山崎純一)
北広島市内にあるブーランジェリー アン・ユイット(撮影・山崎純一)

年に数回札幌ドームへ足を運ぶというオーナーの江川正仁さん(50)は、ボールパーク誕生を心待ちにしている。「今この辺で元気な場所といったら大曲地区だけ」。市内でにぎわいをみせるのは、札幌寄りに位置するアウトレットモールなどの商業施設ばかり。「子どもや孫の代に向かって、北広島全体が大きくなり、元気になってくれればうれしい」。2人の子を持ち、下の子は今春から大学2年生。次の代、さらにその次の代まで、ボールパークによって変わる未来を期待している。

当店1番人気は、午前中に完売することもあるという食パン。メロンパンなどは観戦のお供にちょうどいい。【山崎純一】