日本ハムの連覇は、数字上も完全に消滅した。先発投手陣が崩壊し、野手にもけが人が続出。シーズン序盤から手痛いミスが相次ぐ「王者」らしからぬ戦いが続き、それを立て直そうとして泥沼にはまる悪循環に陥った。監督、コーチ、選手、スタッフすべてが、必死にもがきながら、いまも苦しいシーズンを戦っている。

 支えは、ファンの存在。低迷していても、スタンドからは声援が届き、移動の際には「頑張って」とあたたかく声を掛けられる。「こんなに応援してもらっているのに、本当に申し訳ない」と栗山監督は責任を感じているが、応援があるから、ふがいなさ、悔しさがあるから、何とかしようと前向きに取り組むことができる。

 栗山監督が「本当に申し訳ない気持ち」と最初に言っていたのは、まだ春先だった。こんなエピソードを、私に教えてくれたときだ。

 自宅のある北海道・栗山町の警察署に、「事件なんです」と連絡が入ったのだという。人口約1万2000人の同町にだって犯罪はある。何が起こったのかと問うと、通報者はこう答えたそうだ。「ファイターズが勝てないんです」。昨季11・5ゲーム差を脅威の連勝劇でひっくり返し、日本一まで駆け上がったチームが、4月を終えた時点で6勝19敗の最下位にいた。たしかに“事件”だ。

 同監督は常々「ファイターズが北海道の生活の一部になるように頑張りたい」と話す。家族の食卓での話題、近所の井戸端会議の話題、学校の休み時間の会話が自然とファイターズで盛り上がり、球場に応援に行くことも特別なことではなくなること。静岡と山梨の富士山、滋賀の琵琶湖と同じように、そこに存在することが当たり前で、そして住民が誇りに思えるもの。そんな存在が理想。

 移転から14年。栗山町で起こった“心がほっこり”とする出来事は、少しずつ球団と道民とのかかわりが、変わってきている表れだと感じる。負けがこんでいても応援に足を運ぶファンの存在もまた、その象徴なのではないだろうか。【日本ハム担当=本間翼】