「右膝に土がつく投手がいなくなった」

広島佐々岡監督は投手コーチ時代、そう話していた。右の上手投げやスリークオーターの話だ。確かにかつては、同監督の現役時代を含め、軸足の膝部分を土で汚す投手が多かった。

なぜ、土がつくか。1つは下半身を大きく沈み込ませ、立ち上がる力を利用して投げていたからだ。それが制球を安定させ、ボールのキレを増し、肩肘の負担を減らしていた。コーチ時代の佐々岡監督も「土がついたら自分のリリースポイントが決まるという部分もあった」と話していた。もう1つの理由は、グラウンドの土が軟らかかったからだ。土が掘れるから軸足が物理的に沈み、リリースの際、膝に土がつきやすかったと思われる。

ということは、今の投手の膝に土がつかない理由も見えてくる。今の投球フォームは、肩甲骨と股関節をうまく使い、上半身と下半身の動きを連動させることを重視し、必ずしも下半身を沈み込ませることを求めない。昔と比べると腰高と言っていい。マウンドも硬くなり、スパイクで掘れなくなった。膝がきれいなままなのは必然ともいえる。

この先、膝を汚す投手は出てくるだろうか。出てくるとすれば、恐ろしく下半身が強く、トレンドに左右されない意志の強さを持った投手ということになる。佐々岡監督は「負担が大きいし、そこまで求めない」と話すが、そんな「佐々岡2世」を見てみたい。【広島担当 村野森】

広島大瀬良
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