悲喜こもごものドラフト結果をチェックしながら、海の向こう側で聞いた「僕はまだ、ただ単に3Aの選手ですから…」という言葉を思い出した。

誠実で思慮深い受け答えが印象深い。「こんな遠くまで来ていただいてありがとうございます」-。どこまでも丁寧な好青年だった。子を持つ親の1人として「どうすれば、こんな性格に育てられるのだろう」とご両親に質問したくなるほどのナイスガイ。もう6年以上も前、大リーグの13年ドラフト2巡目(全体66位)でヤンキースに入団した加藤豪将は、今季もマイナーリーグで奮闘していた。

今季は2Aチームでの出場も挟みながら、3A83試合で打率2割7分9厘、11本塁打、39打点。出塁率と長打率をプラスさせた指標OPSは8割2分5厘と上々の成績を残した。10月8日で25歳になり、来季はメジャー初昇格へ、いよいよ勝負の1年になりそうだ。

加藤はドラフト指名時、日本中の野球ファンから注目を浴びて「時の人」になった。あれから6年。黙々と体力強化、技術練習に集中し続ける忍耐力、向上心がなければ、今春3Aで快音を連発して再注目されるまでには至らなかっただろう。

半年前の4月中旬、メジャー初昇格を期待する声が日本で急増する中、3Aスクラントンの本拠地で取材させてもらう機会があった。「僕はまだ3Aの選手ですから」と切り出した彼は「どこにいても結果を出すだけです。メジャーでも2Aでも結果を出すだけ。結果を出してチャンスを待つだけです」と驚くほど地に足がついていた。

ドラフト指名で騒がれても、3Aで活躍しても、そこが着地点ではないことを、加藤は誰よりも理解している。静かに1段1段ステップアップを続けてきた。謙虚な若者の努力が花開く瞬間を、来季楽しみに待ちたい。【遊軍=佐井陽介】