マスクは白くない。阪神原口文仁の医療施設訪問で神戸市内の「チャイルド・ケモ・ハウス」を訪れると、報道陣はカラフルなチェック柄や熊をかたどったようなイラストのデザインのマスクをつけて室内に入った。

今季、大腸がんと闘病して復活した原口はユニホーム姿で、こう言った。

「子どもたちがすごく元気で明るく生活していることも伝わってきた。僕は大きい病気になってから、知る世界がすごく増えた」

同施設は小児がんなど医療ケアが必要な子どもたちと家族のため、13年4月に設立された。同12月から患者を受け入れ開始。家族滞在型の小児がん専門医療施設としては日本初だ。「病院」の概念が覆される、すてきな建物だった。

天窓から陽光が差し込んで、室内は明るく柔らかい雰囲気だ。白い壁、レトロな裸電球…。スタッフも緑色のTシャツを着ていた。ここには「白衣の先生」がいない。公益財団法人チャイルド・ケモ・サポート基金の楠木重範理事長兼院長(44)は言う。「白衣を着る意味は、あまりありません。怖がるだけですから、子どもが」。19戸の部屋がある鉄骨造。暗い、狭いといった、いわゆる「病院」のイメージはない。楠木院長は、思いを説明する。

「ここは病院と家との中間施設です。移植など強い治療は病院で行いますが、長期の治療が必要になります。子どもにとって一番安心なのは日常を維持することです。病院は入院するだけのイメージでしたが、入院中でも、ちゃんとその子の生活を大事にしないといけないという考え方や、活動が増えてきています。病気の暗いイメージを明るく、必要以上に暗くならないようにしていきたい」

小児科専門医の楠木院長が阪大病院に勤務中、家族と話し合っているなか、療養環境のあり方に思い至ったという。「ベッドの横にお母さんがずっといるような状況でした。医者と患者が話し合って共同で作ったものです」と説明する。暗く狭い病室から、明るく広い部屋への解放もその1つだ。世の中の小児がんへの認知を高めるためにも、新たな発想を温め続け、施設のオープンにこぎつけた。

「小児がん医療全体をよくしたいという思いもあります。(小児がんへの)偏見もなくなって子どもたちが社会に出て楽しく過ごせるキッカケになればいい」

この日も子どもたちは原口とキャッチボールに興じた。元気にノーバウンドでテニスボールを投げているのだ。楠木院長は「本当にありがたいですよね。がんの子はベッドに寝ているだけのイメージがあると思います。そうじゃなくて普通の子とまったく一緒でこうやって普通に楽しんで遊べるんだよというのを、知ってもらいたい」と続けた。

管理運営に1年間で約1億円が必要だという。5000万円近い寄付のほか、小児科外来診療の診療報酬などでまかなっている状況で、同基金はインターネットなどで寄付金を募っている。原口も「子どもたちは不安なことが多いなか、こうやって家族と一緒に生活しながら治療できるのは心の支えになるし、大きなこと。こういう施設があるのはすごく素晴らしい」と言う。「病院」の常識にとらわれない、新しい医療のチャレンジを応援するつもりだ。【阪神担当 酒井俊作】