家にいる時間が長く、かつてないほど読書や映画に明け暮れている。先日からはネットフリックスで話題沸騰の韓国ドラマ「愛の不時着」を見始めた。どこまで忠実か分からないが、電力不足による停電で列車が何時間も止まり、外でたき火をするなど、なかなか衝撃的な北朝鮮事情である。

ともあれ、新型コロナウイルスの感染拡大防止に努めるなか、韓国は5月5日からプロ野球が開幕。各チームは12試合ほど消化し、大リーグを開幕できない米国のテレビ局が放映権を取得して中継するなど、かつてない現象だ。韓国の友人も「ウイルスで単調だった日常だったのが、活気づいたんだ。みんな野球を話題にしている。野球の力、スポーツの力だね」と喜ぶ。

余談が続いた。さて、あまり知られていないが、韓国球界では、もうすぐアジアの頂点に挑む戦いが始まる。7年ぶりに古巣サムスンに復帰した呉昇桓投手(37)である。母国で277セーブを挙げたあと、阪神で2年連続セーブ王の80セーブ。大リーグでさらに42個を重ね、日韓米通算で実に399セーブ。元中日岩瀬仁紀氏が持つアジア記録407セーブが目前だ。

今年2月、沖縄・恩納村でキャンプを行う呉昇桓を旧知の阪神担当記者たちで押しかけた。「みんな、覚えてるよ!」と笑顔で大歓迎。アジア記録の話題には「イワセサンがいるよ。イワセサンは日本だけでやった。自分は日本と韓国と米国だから、ちょっと分からないね」と謙虚に受け流した。マリアノ・リベラが持つ大リーグ記録652セーブには及ばないが、異国で活躍し続けた勲章だろう。

昨夏に右肘手術を受けたが実戦に登板。いまは16年の違法賭博容疑のため韓国で昨季途中から72試合の出場停止処分中だが、最短で6月9日キウム戦から復帰できる見通しだ。アジア記録の金字塔に向けたカウントダウンも同時に始まる。

呉昇桓とセーブ。思い出すのは、ソウル郊外の実家におじゃました5年前の15年だ。リビングルームの壁一面にウイニングボールが並んでいた。1球ずつ日付や内容を書き込んだのは母キム・ヒョンドクさんだった。「難攻不落」の額縁やトロフィーなど、スンファンの生きざまに触れた。今年、サムスンではクローザーを務める構想だという。大記録まで残り8個。まだまだ歩みを止めない。【遊軍 酒井俊作】

阪神時代の呉昇桓(2015年9月12日撮影)
阪神時代の呉昇桓(2015年9月12日撮影)