心の叫びを、前に出した。オリックス田嶋大樹投手(24)が6月12日広島戦(京セラドーム大阪)で5回4安打無失点と好投し、今季3勝目を手にした。

「捨て身の覚悟って言うんですかね。自分を崖っぷちに立たせて、ダメなら仕方ないって」

5月15日楽天戦(ほっともっと神戸)以来、約1カ月ぶりの白星。試合直後に、決意のマウンドだったことを明かした。「こんな苦い経験もいつか思い出になるんだろうなと。だけど、しんどかったですよ…。1カ月は長いです」。直前の3試合は計14 0/3回を17失点。「打ち込まれて、次どうなるか」と気持ちを込めたマウンドだった。

奮起する理由があった。試合後、「これは言っていいのか分からないですけど…」と前置きした上で「言っていいか」と気持ちを整理した。「この1カ月、すごく苦しい状況で、自分で結構、抱え込んでいたんです」。そのまま言葉を続ける。「トレーナーさんや、裏方さんが、僕の心の支えというか。温かい言葉を送ってくれた。これだけ、周りの人に支えてもらえていたんだと気がついた」。

心が楽になった。「そんなに自分だけで抱え込んで、マウンドに上がらなくても大丈夫だと思えた。今まで、人にあまり頼れなかったところがあった。今回、温かい言葉をもらって、どうにか気持ちをつながれた。そういう経験、初めてだったんです」。

つらいときは親友に頼った。「心の逃げ場を作ってくれた。親友、家族に感謝したい」。母親にも頭を下げて感謝した。「この前ですかね。(5日の)中日戦、4回4失点で降板して『もうダメだな』と思った。だけど、久しぶりに母親から(連絡が)。『8年ぶりに(攻撃で)走者に出た姿、見たよ』って。投げたかいがあった、と思った。すごくうれしかった」。連絡が来るまでは「また、試合を壊したと思って。『俺ダメだな』と。いる意味あるのかなと」と自暴自棄になりかけていた。

思うような結果が出なくても、頑張る姿を見てくれる人は、きっといる。「母親が連絡くれて『投げる価値あるんだ』と。そこに裏方さんの言葉も重なったから『俺1人で、抱え込まなくていいや』と。そしたら余裕が持てたんです」。マウンドは孤独の場所。ただ、18・44メートル先には相棒がいる。後ろにはナインがいて、ベンチには仲間がいる。

読書家の田嶋は熱を込めて言ったことがある。「本を書くには、それ相応の知識、筆記力、語彙(ごい)力がないと、書けない。本って、その1冊で、1文字、自分にグッとくるものがあったらいいんです。大事なのは、その瞬間なんです」。田嶋の1球に、注目してくれるファンの存在もある。その一瞬のために、またマウンドに向かう。【オリックス担当 真柴健】