日本のプロ野球選手が参加する世界大会は3つだ。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)とプレミア12と五輪だ。前者2つは野球だけの大会だが、五輪は別の競技と一緒という特性がある。DeNA山崎康晃投手(28)はこれまで、侍ジャパンの一員としてプレミア12で活躍してきた。五輪参加は今回が初めて。新たな経験をした。

WBCもプレミア12も、プロ野球がさかんな国や地域ではそれなりに話題になるだろうが、ほぼ世界中から注目される五輪とは段違いだ。山崎の母ベリアさんは、野球が人気競技とはいえないフィリピン出身。だが、東京五輪では「フィリピンにいる家族もオリンピックの野球の日本代表の映像が見られていたようで、しっかり頑張っている姿を届けられてよかった」と山崎はうれしそうに話した。

しかもフィリピン在住の親戚の間で、ヤスアキ人気が沸騰していた。「お母さん側の親族の方が、一気に携帯の画面が僕になったり、待ち受けが僕になったりしたと言っていた。お母さんが非常に喜んでましたし、そういう姿を見せられて僕自身すごくよかった」。金メダリストとなったことで、最愛の母に対し、思わぬ親孝行ができた。

閉会式では、他競技の選手と交流が持てた。卓球の銀メダリスト石川佳純とは同学年。「スマッシュとかサーブとかちゃんと見えてるの」と質問し「ちゃんと見えてます」と答えてもらったという。柔道の金メダリスト阿部詩との2ショット写真もツイッターで紹介している。「異種競技の方と話ができたのは、日本を代表する選手だし、それ自体がいい経験。閉会式に出ることは、なかなかできない経験ですし。野球人生における(記念すべき)日になった。これからも代表選手でありたいなと、あらためて感じられた」と刺激を受けた。

野球界以外にも意識を持つことで、客観的に野球を捉えることもできる。ツイッターでは、ロッカー室の選手の表情など、現役選手にしか撮影できない場所、状況から発信してきた。「野球人口が減る中で、野球が普及していくように頑張っていきたい思いがある。オリンピックは重要なステップになると思っている。選手個人の技術もそうですが、将来子供たちが野球をやる上で、東京五輪で金メダルを取った日本代表がどういう姿だったのか残したかったので、選手にも協力してもらった」。裏側にはこんな思いを秘めていた。

こうした発信は、緊急事態宣言が何度も繰り返され、苦しい生活を余儀なくされているファンにも、喜ばれていたと実感した。「『ずっとカメラ持っているじゃん』『日本代表の広報』とか呼ばれていましたが、個人的には明るい表情、笑顔が国民の皆様に届いてほしいと思って」。コロナ禍で開催された五輪が、社会に与える影響さえも考えてきた。「本当に世間が大変な状況下でオリンピックが開催されたことを感謝してますし、多くの国民に野球に、オリンピックに注目してもらって、野球の金メダルを祝福してくださって、非常にうれしく思います」。リリーフ陣で最年長だった右腕は、格段に広い視野を得て、チームに戻って来た。ペナントレースの後半戦が、そして山崎の今後の野球人生が楽しみだ。【DeNA担当=斎藤直樹】