日本ハム清宮幸太郎内野手(22)は、込み上げる思いをこらえ切れなかった。
イースタン・リーグDeNA戦の6回。目を潤ませて駆け寄った先に早実の大先輩、斎藤佑樹投手(33)がいた。試合後、清宮は涙の真意を明かした。
清宮 本来なら1軍で僕も送り届けたいっていうのがありました。やっぱり、この場でしか、お別れができないむなしさというか、やるせなさがあったので。
いろんな感情が入り乱れていた。4年目の今季は開幕から2軍生活が続く。1軍での活躍を目指してもがく中で直面した、大きな影響を受けた野球人のサヨナラの儀式。投球前にも声をかけた。「楽しんできてください、と一言。(プロ野球は)結果に追われるスポーツなので、最後くらい思い切り楽しんでほしいなって」。その時から、目はウルウルしていたという。
斎藤がいたから、清宮は野球人の道を歩むことを決めた。小学1年の時。あの伝説となった夏の甲子園の決勝再試合を観戦し、将来像が決まった。「小学校から早実にいる僕にとっては本当に“超スター”なので。同じチームになっても、いつまでたっても僕たちの中ではスターなので」。
初めて近くで接したのは高校1年の冬に出席した同校野球部のOB会。「あぁ斎藤佑樹だ。かっこいい」と、心の中で思ったという。2年後のドラフト会議で憧れの野球人と同じ日本ハム入りが決まると「まさか」と驚いた。大先輩はいつも優しく接してくれた。
数日前に直接、現役引退することは聞いていた。その際に斎藤から「王さんには『あとは幸太郎に任せます』と言っておいたから」と伝えられた。清宮は「重い言葉です」と受け止めたからこそ、この日、鎌ケ谷にいる自分のふがいなさも、より感じたのだろう。
19本塁打で西武渡部とイースタン本塁打王を分け合った。「取りたい」と話していた“初タイトル”は何とか手中に収めたが、満足はしない。「意地でも来年は1軍で活躍する」。斎藤にささげた涙は、自らを奮い立たせる涙でもあった。【木下大輔】