9月25日の早朝、起床した日大三島・永田裕治監督のスマートフォンには、2件の不在着信とLINE(ライン)の通知が画面に表示されていた。ともに、相手は報徳学園の監督時代の教え子だった西武田村伊知郎投手(27)だった。前夜のロッテ戦にリリーフ登板し、プロ初勝利をマーク。文面には、プロ初勝利の報告とともに感謝の言葉が添えられていた。

プロ初勝利の西武田村(左)は記念球を手に辻監督と記念撮影する(2021年9月24日)
プロ初勝利の西武田村(左)は記念球を手に辻監督と記念撮影する(2021年9月24日)

永田監督 いろんな方から連絡が来て、大変やったと思うんですけど、その日の夜に連絡をくれてね。あの子らしいなと思いましたね。

25日は、秋季静岡大会準々決勝の掛川西戦だった。劇的な逆転サヨナラ勝ちで制した後、永田監督は田村に電話をかけ、祝福の言葉を掛けた。時間にすれば20分ほどだったが、田村から繰り返されたのは高校時代の指導への感謝の思いだった。「今があるのは、監督に1球の大切さを教えていただいたおかげです」。電話口からも律義に頭を下げる田村の姿が浮かんだ。

永田監督 高校時代から「ド」がつくほど真面目な子でしたから。プロになった今でも、それはずっと変わらないですね。

報徳学園では1年夏から甲子園に出場し、4強入りに貢献。「スーパー1年生」と注目された。立大を経て、ドラフト6位でプロ入りし、5年目でたどり着いたプロ初勝利。お立ち台で涙を流した田村の姿に、永田監督も「つらいこともたくさんあったと思います。彼自身の頑張りの結果ですし、本当にうれしかったです」と感極まった。

第83回選抜高校野球選手権大会・甲子園練習 永田裕治監督(左)が見守る前で投球する報徳学園・田村伊知郎(2011年3月19日)
第83回選抜高校野球選手権大会・甲子園練習 永田裕治監督(左)が見守る前で投球する報徳学園・田村伊知郎(2011年3月19日)

8日後の10月3日、静岡県大会決勝で聖隷クリストファーに勝利し、監督就任後初優勝を飾った。「監督、おめでとうございます。感動しました」。田村からの祝福の電話に、胸を熱くした。【遊軍=久保賢吾】

38年ぶり2度目の優勝を飾った日大三島。後列左端が永田監督
38年ぶり2度目の優勝を飾った日大三島。後列左端が永田監督