プロ野球界にまた、新鮮な風が吹いた。ロッテ佐藤奨真投手(23)が、14日のオリックス戦でプロ初先発した。オーバースロー左腕。全体の3割を占める直球の平均球速は135・1キロだった。

投手の球速がどんどん上がる令和球界。前日にはチームメートの佐々木朗希投手(20)がまたしても160キロ台を連発したばかり。対極の左腕は「佐々木朗希とはまた別の違った投球は見せられると思っているので、遅い球で抑えている姿をしっかり期待して見てほしいです」と前日にコメントし、有言実行の6回1失点。初回に連打で先制された後は、1本の安打も許さなかった。

140キロ台は1球もなし。直球の回転数も、本人談で「2000ちょっと」とそこまで強烈なものではない。肝は“奥行き”。間合いと緩急のかけ算で、フルスイングとジャストミートを許さない。チェンジアップの抜け感もさえ渡り、6回までに12球を空振りさせた。オリックス山本由伸投手はこの日、8回で11球の空振り。ひそかに、球界を代表する本格派右腕の数字を上回った。

20年育成ドラフト4位で専大から入団した。一芸が評価されるといわれる育成選手。球速、強肩、俊足、変則投法。佐藤奨は決して可視化や数値化ができない“奥行き”を極め、その価値を見そめられ、ついには1軍で先発好投するまでに大成した。

記念すべき初先発の初球に、101キロのスローカーブを選んだのも何とも味わい深い。「昨日の朗希が真っすぐとかをはじかれていたので、カーブで行ったら初球を見逃してくれるかなと思って」。結果は高く浮いてボール球になったが、そんな胆力もある。契約時には「笑顔で引退できる選手になりたいです」と夢を語った。道筋の見える先発初陣だった。【ロッテ担当 金子真仁】