満員の東京ドーム。カクテル光線を浴びながらお立ち台でインタビューを受けるのは、女子プロ野球の選手たち-。

そんな未来を夢見て、確かな1歩を踏み出した。2022年6月3日の府中市民球場だった。

この日、巨人は東京・府中市とスポーツ振興に関する協働協定を締結。23年初頭から本格始動する巨人女子硬式野球チームのホームタウンの1つとして、活動拠点となる。

同市は女子野球の振興にも力を入れ、5月16日には全日本女子野球連盟の「女子野球タウン認定事業」に都の自治体として初めて認定されていた。

巨人の女子チームはこの日、同球場で選手選考を開始した。コロナが収束していない状況もあり、1次選考は動画によるデジタルセレクションとなったが、88人の応募があった(シーズン中であることを配慮し、第1回セレクションは高校3年・大学生が対象。9月の第2回はクラブチーム所属者が対象)。

宮本和知球団社長付女子野球アドバイザーによると40人前後が8月の実地選考に進むといい、その中から合格者を決める。現在所属する選手と合計し、投手5、6人、捕手3人、内野手6人、外野手6人程度のチーム編成とする。

この選考に先立ち、今村司球団社長は女子野球の未来について大きなビジョンを語っていた。

「女性活躍をバックアップしたい。NPBのプロ野球と同じように、新たなエンターテインメントとして発展することを目指していきたい」

今、巨人の女子チームに所属する選手は4人。皆、小学生らを指導する「ジャイアンツアカデミー」に従事しながら練習を続けている。今村球団社長は続けた。

「僕自身は女子野球は発展する可能性があると思っています。彼女たちはアカデミーで指導しながら野球に取り組んでいますが、できたらその比重を今のNPBのプロ野球と同じようにしていけたら」

女子野球の競技人口は全国で約2万1000人。全国高校女子硬式野球連盟の加盟校も約40校へと拡大を続けている。昨年は初めて、甲子園で全国大会の決勝を行った。

一方、男子は日本高野連ホームページによると、05年の4253校をピークに減り続けているとはいえ、21年度で3890校。女子の400倍の加盟校だ。

女子プロ野球への道は決して平たんではない。選手も夢と現実の両面から、自分たちが置かれた立場を客観視していた。

1期生として入団した島野愛友利投手(18)。昨年、甲子園で行われた全国大会で優勝した神戸弘陵高(兵庫)のエースだった。

女子野球のプロ化について「まだ先は長いのかもしれません。男子のプロ野球がここまで発展するにも、かなりの歴史と時間がかかっている。女子が一気にそこまで膨れ上がるのは、なかなかすぐには難しいとは思う」と冷静に語った。それでも、壮大な夢への初めの1歩を、自分たちが踏み出す自覚を持ち合わせている。

「今、自分たちが一番やらなければいけないことは野球選手として上手になること。競技の魅力を出さなければ長くは続かない。数年で見れば、しなやかさ、かわいらしさ、元気の良さによって人を感動させる力はあると思うんですが、長い目で見たときに競技として『すごい』と思ってもらえるような選手にならないといけない。その環境づくりは今から大事になる」

今村球団社長はこのスタートアップメンバーへ「女子プロ野球の種となってほしい」と願う。冒頭のシーンが実現するのは、いつになるかは分からない。それでもこの1歩を踏み出さなければ、その道はない。

「今、女子野球選手である以上、その責任と自覚はみんな少しずつでも持っていると思う。全員が何かの目的に向かい、段階を踏んでやっていけば、何か社会にも良い影響があると思います」

島野は目を輝かせた。【巨人担当=三須一紀】