振り返れば、1球目だった。オリックスのエース山本由伸投手(23)が、18日西武戦(ベルーナ)でプロ野球史上86人目(97度目)となるノーヒットノーランを達成した。

最後のアウトを奪うと、背番号18は駆けつけたベンチのナイン、ブルペン陣から歓喜のウオーターシャワーを浴びた。その後、ヒーローインタビューを受けファンに深々とお辞儀すると、会見取材へ登場する。

「ブルペンでは(制球が)バラついていた。そんなに(状態が)良い方ではなかったんですけど…。ちょうど試合に入ったところから力みが取れて、どんどん打たしていこうと思いながら投げていた」

率直に表現される言葉を聞き、ハッとした。27個のアウトを思い返せば、1カ所だけ、日頃と違うシーンを見かけた記憶があった。それは、1球目だった。

試合の入り-。1回裏の投球練習が、なかなか始まらなかった。山本はマウンドの足場を、埋めたり固めたりしていた。ここが普段は見かけない光景だった。

本拠地・京セラドーム大阪でのマウンドが好例だろう。山本は、かっこいい登場曲と拍手の中、一塁側ベンチからマウンドに向かって前進していく。胸を張り歩いた先には、プレートがある。到達すると、体の向きを本塁方向に90度回転させ、1球目を投じる。プレートに添える右足や、左足の着地点は気にしない。

かつて「1球目を投げるとき、足場を固めないのはどうして? 」と聞いたことがある。

山本は笑顔で即答した

「僕のこだわりは、マウンドをずっと同じ状態に保つことです。球数を投げる度に、右足プレート側のつま先部分が掘れてくる。ここの高さが変わると、踏み込む足の重心も変わっちゃう。ずっと平らに保てるように、埋めたり掘ったり工夫しています」

マウンドから起伏をなくす-。なかなか投げなかった、あの日の1球目の答えは、そこにあった。

相手先発は西武平井だった。投手の半数以上は、一塁側や三塁側を好んでマウンドに立つが、山本は基本、プレートの真ん中付近を踏んで投げる。

「相手ピッチャーと一緒のところで投げると、自分の足の感覚じゃなくなるんです。だから、ズラして踏んでます。(ソフトバンクの)千賀さんと投げ合うとき、同じ雰囲気だから、ちょっと嫌なんですよね(笑い)。何カ所か、自分の足がフィットして投げられる場所があるので」

投球フォーム、力感、リリース位置、そして配球…。投手がクリアすべき部門は多々ある。

全部門と向き合ってきた山本が、マウンドさばきの重要性に気づいたのは、昨夏の東京五輪、準決勝の韓国戦(横浜)だった。

「あのとき、1球目が超滑ったんです。そこから気にするようになった。マウンドって、高さ、硬さ、(景色の)見え方だけじゃなくて、砂の感じも味わうんだなって」

大舞台でも、飽くなき向上心で大きく成長する。日の丸を背負う、昨季の沢村賞投手に「ノーヒットノーラン投手」の称号がついた。【オリックス担当=真柴健】