「むむむ!」と目を見張る若手が楽天にいる。高卒3年目の武藤敦貴外野手(21)だ。今季31試合の出場ではあるが、打率は2割8分8厘。23日西武戦ではプロ初本塁打を放った。西武平良の外角140キロフォークを右手1本ですくい上げるようにスイング。「セカンドフライかと思った」と打ち上げた打球がライトポール際まで飛んだ。ソフトバンク柳田の“変態ホームラン”をほうふつさせる1発。「自分でもやったことのないバッティング。頭の中で考えていたことが体に染みついて勝手に動いてくれたのかな」。天性の打撃センスが垣間見えた。

将来のチームを担うホープ。大切に育成していくべき存在ではあるのは間違いない。だが、石井GM兼監督は、やみくもに出場機会を与えない。競争の土俵に自ら上がってくることを望んでいる。指揮官は「育てるということも大事ですけど、ある程度上でしっかりとパフォーマンスをできる努力をしてくれたら出す。『同じだったら若い方を使う』とみなさんよく言ったりするけど、確かにそれはそう。でも同じじゃなかったら、現状いいコンタクトをしている人を使います」。島内、辰己、西川、岡島らがひしめく外野手陣。まずはチーム内の競争を勝ち抜くことを求めた。

自身のプレー以外にも、先輩たちを見て学ぶことも多い。「ベンチでは武藤にああいうの見とけ、こういうの見とけってやっている。走塁にしても、リードが小さくて、スタートの時に足が空回りしたら、盗塁もセーフになれない。だからいいところばかりではなく、悪いところも見なさいと。自分はこうしようと思える」と説明する。

打撃面の課題も明確だ。対右投手の打率が3割6分4厘に対して、左投手相手には0割5分6厘。それでも着々と成長を続けている。石井GM兼監督が挙げたのは3日ロッテ戦(ZOZOマリン)。5回、中村稔との対決で、初球から3球続けて見逃し。カウント1-2から、4球目の低めボール気味のツーシームを振らされ、中飛に打ち取られた。指揮官はベンチで武藤を諭した。「待って待って追い込まれて、ピッチャーの振らそうとしてるボールを振っちゃう。そのときも怒って。『(左投手を)打てていないんだから、最初から振りにいかなかったら生きるところはないんだよ』って話をして」と振り返る。次の打席は2死満塁のチャンス。今度は初球、中村稔の外角低めツーシームを振り抜いた。右前に2点適時打。教えをすぐにものにした。石井GM兼監督は「やっぱりそういう声かけをしないといけない時期というか。まだ彼は怒られないといけない時期。自分で向かわせることと、怒って向かっていかないといけないところと、まだ彼は両方ある。そこは頑張ってほしい」とエールを送った。

厳しい言葉が出るのも、大きな期待を寄せているから。「ただ、上でやるパフォーマンスは持っている。将来レギュラーになってほしいという選手です」とうなずいた。課題に取り組みながらも、先輩たちとのポジション争いに真っ向から挑んでいる。プロ初本塁打を放った翌日の24日西武戦では、3回2死から右中間へ三塁打。武藤の長打を口火に、6連打で4点を先制した。試合後指揮官も「武藤がしっかりと出塁して、三塁まで走塁してくれた」と評価した。まだまだ可能性が無限大の若鷲。これからどれだけ大きく羽ばたいていくか-。後半戦も目が離せない。【楽天担当=湯本勝大】