シーズンオフの静かなマツダスタジアムに、ユニホーム姿の3選手がグラウンドに出てきた。床田寛樹投手(28)と野間峻祥外野手(30)。そして今オフ、戦力外通告を受けた薮田和樹投手(31)だった。さらに昨季限りで現役を引退した白浜裕太スコアラー(38)もキャッチャー防具を着けて姿を見せた。

トライアウトに向けてシート打撃に登板した広島薮田和樹(撮影・前原淳)
トライアウトに向けてシート打撃に登板した広島薮田和樹(撮影・前原淳)

打撃ケージが用意され、ケージ後ろには庄司隼人スコアラー(32)もスピードガンを持って構えた。15日のトライアウトを受ける薮田のため、グラウンドキーパーが外野を守るだけのシート打撃が行われた。

きっかけは床田の「薮田さん、対戦しましょう」という一言だった。「カープのピッチャーと対戦したかったんですよ」と笑うが、新天地を探す先輩を思っての行動でもあった。

「たぶん先輩の中で一番仲のいい先輩。家族ぐるみで仲いい。(戦力外通告後に会った)最初は泣きそうになっちゃった」

廿日市市内の大野練習場で調整していた薮田は秋季キャンプ開始と同時に、拠点をマツダスタジアムに変えた。惜別対戦を願い出た床田は、投手の自分だけではなく、薮田と同期で同学年の野間にも声をかけた。ユニホームを着用したのは「ガチ感を出すため。遊びになっても嫌じゃないですか」と本番モードに近づけた。

トライアウトに向けてシート打撃に登板した広島薮田和樹(奥)の投球をネクストバッターズサークルで見つめる床田寛樹(撮影・前原淳)
トライアウトに向けてシート打撃に登板した広島薮田和樹(奥)の投球をネクストバッターズサークルで見つめる床田寛樹(撮影・前原淳)

静かなグラウンドで薮田の投球練習が始まると、堂林や九里、矢崎と、マツダスタジアムで自主トレ中の選手も集まってきた。広島のユニホームを着た薮田の最後の登板。対戦した床田は安打性の当たりに両手を挙げて大喜びするなど先輩との対戦を心から楽しんでいた。「ずっと一緒にやってきた、いいピッチャーの球を後ろから見ているのと打席に立つのとでは違う。すごく楽しかった」。当初の予定では野間の打席で終わるところ「もう1打席、お願いします」とおかわりしたほどだった。

薮田は2人と計23打席対戦し、約70球を投じた。投球後は芝生の上で本番に向けた青空会談。打者目線での球筋や変化球の軌道などを伝えた。現役時代に使ったプロテクターなどを家から引っ張り出し、球を受けた白浜は「1年ぶりだったけど取れて良かった。それくらい、いい球を投げていた」と太鼓判を押した。野間も「良かった。まだ行けると思う」とうなずき、床田は「また対戦できたら」と来季の再戦を願った。

ともに戦ってきた仲間から背中を押された薮田は「ただ床田と対戦するだけが、結構大がかりな形になっちゃったんですが、感謝しかない。ここまで来たら12球団制覇を目標に頑張ります」。新たな目標を胸に刻んでトライアウトに向かう。【広島担当 前原淳】

トライアウトに向けたシート打撃登板を終えた広島薮田和樹(右)の下に集まる床田寛樹、白浜祐太スコアラー、野間峻祥(右から)(撮影・前原淳)
トライアウトに向けたシート打撃登板を終えた広島薮田和樹(右)の下に集まる床田寛樹、白浜祐太スコアラー、野間峻祥(右から)(撮影・前原淳)