現場取材歴が長いベテラン記者が、さまざまな角度から「サイン盗み」を考察する。最終回は「根絶のために」。

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「サイン盗み」をなくすためにはどうすればいいのか? 簡単でないのは、ここまでの連載を読んでいただければ分かってもらえると思う。

あくまでも私見だが「サイン盗み」をなくすためには、まずはルール違反の罰則を発動しやすく、厳格にするべきだと思う。

疑わしい行為があった時点で、そのプレーヤーはアウトとする。例えば走者が打者にサインを送ったり、コーチが不自然な動作をしたと判断したら、その時点で打者をアウトにすればいい。

証拠がそろわなければペナルティーを科せられないのでは、サイン盗みは取り締まれない。もちろん、疑わしい行為があって、その後の調査でスパイ行為やサイン盗みがあったのなら、出場停止処分など、もっと重い罰を科せばいい。いきなり重いペナルティーだけだと処罰しにくいし、軽いだけだと効果は少ない。2段構えのペナルティー制を導入すれば、簡単には違反できなくなる。

サイン盗みの現状を見ると、日本では中学、高校の低いカテゴリーで盛んに行われている傾向にあり、アメリカはその逆で、最高峰のメジャーリーグで浸透している。日本のアマチュア野球では、もっと厳しく取り締まってもらいたい。

高校野球を見ていて打者がチラチラと捕手の方を見る見苦しい場面が多すぎる。球数制限などを論議する前に「カンニング行為」を取り締まれば投手の負担だって減る。球審が分からなくても各塁審が打者が捕手の方を見たのが分かった時点でアウト。今年の選抜大会でも、プロ注目と言われている選手が「チラ見」をしていてガックリした。

個人的に高校野球で「チラ見」していた選手のプロ入り後を注目しているが、大成していない。プロ入り後も「チラ見」を続けているように見える選手が若手の侍ジャパンに選ばれたが、とても応援する気持ちにはなれない。世界大会などに出場し、世界に日本野球の恥を広めてほしくないからだ。

小学生や中学生にも指導者が徹底して教育してほしい。現在、野球の指導をしている人の多くは、二塁走者が「リー、リー、リー」と言いながら、両手を使って捕手の構える位置を堂々と教えていた時代の人たち。むしろサイン盗みは強いチームがやるものとして、選手に指導している場合もある。

以前取材した選手の話を聞いてがくぜんとしたことがある。紛らわしい動作をした選手に「なんでそういう動作をしたのか」と聞くと「そういうクセがあるんですよね」と平気な顔をして答えた。そんな答えでごまかせると思っているのだろうか。

答えられないから、そうやって言うしかなかったのだろう。それ以上は追及しなかったが、そういう教育をしている指導者こそ、厳格なペナルティーを与えるべきだ。高野連から発動したわけではなくとも、抗議した方が謹慎処分となったら、余計にサイン盗みが横行しそうな恐れがある。

大げさかもしれないが、社会的な犯罪を見ても、取るに足りない軽犯罪から重犯罪につながるケースは多いという。あくまでも「盗まれた方が悪い」のではなく「盗んだ方が悪い」という意識でいてほしい。少年野球からプロ野球まで、野球界全体で考えていく問題だと思っている。(この項おわり)【小島信行】