山梨学院は17日の甲子園高校野球交流試合で白樺学園(北海道)に8-3で勝利し、夏を最高の形で締めくくった。1年生投手2人でつなぎ、相手打線をわずか3失点に封じた。勝利の裏で、記録員の河瀬貴洋(3年)が1年生、チームを支えていた。

17日、甲子園交流試合の白樺学園戦で、河野修慈の中越え3点適時二塁打で追加点を奪いベンチで笑顔を見せる河瀬貴洋記録員
17日、甲子園交流試合の白樺学園戦で、河野修慈の中越え3点適時二塁打で追加点を奪いベンチで笑顔を見せる河瀬貴洋記録員

河瀬は以前、投手だった。昨秋の県大会決勝で、9回1死一、三塁と一打サヨナラ負けのピンチをしのぎ、延長での勝利に大きく貢献。投法をサイドスローに変え、順調だった。

右肘に違和感を覚えたのは昨年の冬だった。原因は肉離れ。けがは良くならず、治癒の可能性を信じたが、かなわなかった。6月末の引退試合が高校3年間の集大成の場になった。1イニングを投げるはずが「アウトを2つ取るまで」となり、痛みをこらえながらも、感謝を胸に全てをかけて投げた。

河瀬貴洋投手(左)は、マネジャーからスコアブックを受け取る(撮影・湯本勝大)
河瀬貴洋投手(左)は、マネジャーからスコアブックを受け取る(撮影・湯本勝大)

試合後、3年生の女子マネジャー2人からサプライズがあった。「甲子園でベンチに入ってほしい」。そう言われ、スコアブックを渡された。まさかの出来事に驚き感情があふれそうになった。涙をこらえた。選手としていけるはずだった甲子園。立場は違えどベンチに入ることになった。

8月13日の山梨独自大会決勝で、チームを揺るがす事件が起きた。エース吉川大投手(3年)が打球を顔面に当てて負傷した。河瀬と同じ富山出身で小学6年生から、ともに野球をやってきた。友として、大黒柱として「河瀬の分まで戦いたい」と意気込みを語っていた存在だった。

甲子園の先発には急きょ、川口龍己投手(1年)が抜てきされた。1年生投手の先発は、交流戦16試合目の最終試合にして初めて。エース不在に加え、初の甲子園マウンド。入学間もない川口の緊張、プレッシャーは計り知れなかった。河瀬は投手経験者として、どうにかリラックスして楽しくマウンドで投げさせたかった。自分の存在で安心感を与えたかった。「気負わないでいい。3年生が守っているから、後ろを信じて投げろ」と声をかけ、背中を押した。試合中も「選手のために」常に考えて行動し、声を出し続けた。

マネジャー2人から託された思いとエースの悔しさを背負い、選手だったからこそかけられるアドバイスを武器に、ベンチでチームを支えた。「今までで一番最高のベンチ」を作った。【三須佳夏】