巨人大勢投手(23)の身に予期せぬ出来事が起こったのは、私が彼の母校である兵庫・八千代中を訪れた約1週間後の7月19日のことだった。大勢が濃厚接触疑いで出場選手登録を抹消されると、翌20日に陽性判定を受けたことが発表された。

ファン投票で勝ち取ったオールスターゲームの開催は同26、27日。「全て直球で、ホームランか三振か。魅せる野球で、ワクワクさせるような対戦をできたら」。力勝負を明言し、楽しみにしていた球宴の出場は、この時点で事実上なくなった。インスタグラムで「無症状で体は元気なので、なおさら悔しいです。1日でも早く1軍の試合で恩返しが出来るように、意味のある日々を過ごします」と悔しさを吐露した。

私自身も無念だった。大勢の晴れ姿を球宴で見られないことはもちろん、八千代中の生徒からもらった球宴の応援メッセージなどが書かれた色紙をすぐには届けることができなくなった。伊藤岳さんが書いた「オールスターで三者連続三振!」という色紙はむなしく手元に残る。いつかは必ず、本人のもとに届けたい。

すでに2週間が経過。前を向いて走りだしている。同学年の日本ハム清宮のサヨナラ弾や「話してみたい」と言っていたヤクルト村上らのオールスターでの活躍をテレビで観戦。スター選手の活躍に、自らがファンのように魅了された。次は自分も-。切り替えられるのが大勢の強さだ。

故郷にいるときから、大抵のことでは動じない。自然豊かで野生の動物にそこら中で遭遇する。「イノシシだったり、猿だったり鹿だったり、たぬきやきつね、うさぎとか…。クマは町内放送で『出ました』っていうのは聞いたことあります」と回想した。

さらにランニング中に鹿が並走していたことも。さすがにこれには「ビビります。最初は向かってこようとするので」と恐怖心を感じるも、冷静に「とりあえず1回止まります」と静止してやり過ごした。「しんどくなった時、地元に帰ったらもう1回頑張ろうと思える。成長して帰りたいという気持ちを持たせてくれる」と語っていた故郷での記憶。それに比べれば何事も恐るるに足らず、なのかもしれない。

プロ初キャンプ直前の1月末、新型コロナウイルスに感染して出遅れても、少ないチャンスでアピールに成功。オープン戦の結果と内容で、新人守護神の座を射止めた。落ち込んでいる時間があるなら、前に進んできた。球宴で見せられなかったファンを魅了する姿は、後半戦で必ずや。大勢の描く道は続く。もっと先まで見てみたい。【小早川宗一郎】

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巨人大勢の母校・多可町立八千代中内には活躍をたたえる「大勢コーナー」があった(撮影・小早川宗一郎)
巨人大勢の母校・多可町立八千代中内には活躍をたたえる「大勢コーナー」があった(撮影・小早川宗一郎)