ヤクルト山田哲人内野手(30)はその名の通り「打席の哲学者」のようだ。15、19年プレミア12、17年WBC、21年東京オリンピック(五輪)と出場した主要国際3大会全てで本塁打を打っている唯一の日本選手。なぜプレッシャーのかかる国際舞台でここまでの結果を残せるのか。

21年8月、東京五輪の野球準決勝韓国戦で左越え3点適時二塁打を放つ山田
21年8月、東京五輪の野球準決勝韓国戦で左越え3点適時二塁打を放つ山田

理由の1つが「メタ認知能力」の高さだ。自分自身を客観視する力のことだが、山田のそれは極めて特徴的だ。自身を俯瞰(ふかん)する力にたけ「自分ごとなのに人ごとのように見たりする。何もかもがうまくいくわけじゃないですから」。緊張に包まれる国際大会でも「ほぐそうとはしません。緊張は絶対にするもの。そのまま行きます僕は」と客観視することで自分を見失うことを防ぐ。

それだけではない。成功や失敗に一喜一憂せず、課題を冷静に分析し、改善の道を探る。キャンプに入って打撃フォームを3度変えるなど試行錯誤する姿勢もまさに「メタ認知能力」の高さから来ている。

国際大会の劇的シーンを例に挙げ、打席における山田の客観的視点を自ら解説した。初対戦投手が多くなる国際大会。投球傾向データを頭に入れ準備して打席に立つと「受け身」になりがちだという。その中で「受け身だと打てなくなることもある一方、受け身になった方が冷静になれるときもある」と話す。

山田の主な国際大会成績
山田の主な国際大会成績

2つの象徴的な韓国戦がある。21年東京五輪準決勝。2-2の同点で迎えた8回2死満塁。初球を強振し、左中間フェンス直撃の決勝3点適時二塁打を放った。この場面を「積極的に行き初球で決められた」と振り返る一方で「何でもかんでもガツガツ積極的に行くと早打ちになって打てないときもある」と説明する。

その場面が19年プレミア12の決勝だった。1-3の2回2死一、二塁。「1度じっくり見よう」と初球から3球連続で見送る。カウント2-1から1球空振り、3球ファウルで迎えた8球目。「真っすぐだろうな」と読み通り直球を振り抜き、左翼席へ決勝3ランを放った。「結構冷静でしたね。粘って粘って。でも積極がいいのか、冷静がいいのかの判断は難しいんですよ。自分の直感なんで」。

相手と自分を客観視しながら答えを導き場面、場面で対応を変える。「どれを選択すればいいか。チョイスの問題なんです。そこの駆け引きも始まってるって感じですね」。来月のWBC本番で「哲学者山田」が決断する選択に注目してほしい。【三須一紀】