日大三高野球部から弁護士への道を切り開いた岩切太輝さん(24=23年3月東京学芸大・教育学部卒)のチャレンジを振り返った。
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岩切さんに予備試験、司法試験ともに1回目の挑戦で突破した勝因を聞いた。即答だった。「量と、気合ですね」。
量と気合。何かを成し遂げようとする挑戦者の誰もがその気になればできることだ。しかし、その奥は深い。やり抜くには鉄の意志が必要。言うは易し、行うは難しの世界だ。
三木監督が担任のクラスでは三木監督が好きなフレーズをタオルにプリントして使っていた。「ガッツ・気合・根性」。
岩切さん 精神論ですよ。ただ、自分が集中しているって感じる時は、ものすごく気持ちが入っている時です。だから気合ですね。気合は大事です。超有名進学校の人も、要は勉強の時は全集中していると理解しています。それは野球に全集中している僕らと、メンタル的には同じだと受け止めています。
岩切さんは全神経を集中させるために、20分の睡眠を小刻みに勉強の合間にはさみ、テンションの波をコントロールしていた。加えて、エビングハウスの忘却曲線を活用していた。「エビングハウス?」と小倉全由前監督も、三木監督も驚きつつ、教え子からどんどん出てくる言葉に、ワクワクする顔を見せた。
岩切さん 忘却曲線というものがあります。人は一定の時間が経過すると覚えたものを忘れる傾向にあります。だから僕は忘却曲線に合わせて、忘れかけた頃の最適な復習タイミングで、法律や判例を学び直しました。そうやって、確実に身に付けようとしました。
工夫しながら、岩切さんの武器「量と気合」で膨大な六法全書と判例の反復学習に向き合った。高校3年11月の東大模試で偏差値18だった岩切さんは、無尽蔵に湧き出すやる気を燃やし、大学3年で司法を志してから1年で予備試験をクリア、さらに1年で本試験の司法試験も突破。一気にゴールを駆け抜けた。
今は忘却曲線のかなたに、決して迷わない道を見据える。弁護士となって仲間を支えたい。昨オフ、現役ドラフトでDeNAから楽天に移籍した桜井周斗投手(24)は大切な同期だ。
岩切さんは司法修習を終え弁護士として仕事を始めたら、桜井の代理人になることを希望している。U18メンバーにも選ばれ、ドラフト5位でDeNAに入団し、晴れてプロ野球選手になった逸材だ。
その桜井を岩切さんが弁護士となって支える。野球部の同期が、立場を変えて支え合う姿は、高校野球を源泉に、どこまでも続く仲間の物語を私たちに見せてくれる。
野球がうまくなりたい、試合に出たい、その一心で高校3年間を野球にささげた。そして鍛えられ、たくましくなったのは野球だけではなかった。
大人の想像をはるかに超えたスケールと強度で、球児のエネルギーは、岩切さんを司法の道ヘと導いた。
この事実が、いかに可能性があるかをまざまざと見せてくれる。そもそも備わっていた学習能力の高さはあったはずだが、困難を切り開いた原動力は、まぎれもなく球児として培ったものだ。
岩切さん 三高野球部にはいろんなことへチャレンジしようという雰囲気があります。そしてそれを絶対に周りの人は笑ったり、バカにしたりしません。みんなで応援する、そういう気風にあふれています。僕は最後まで気持ちが折れずにやり遂げることができました。それは、やり抜く心のスタミナがあったんだと思います。三高野球部で仲間と一緒に厳しい練習をやり抜いたからだと、今も心の底からそう思っています。僕は小倉監督、三木さん、白窪さんを心から尊敬しています。そして、こうして三高野球部に顔を出せることが本当に幸せです。
高校の部活で作った土台を元に、全国の秀才と肩を並べる知識と知見を手にした岩切さんは輝いている。誰もができる離れ業ではないが、この事実が暗示する教訓は無限に広がる。
弁護士への扉を開いた今、あらためて聞いた。「岩切さんは何になりたいですか?」。
質問を聞き終わらないうちに、食い気味に答えてくれた。「やっぱり野球選手です。僕の軸は今も、これからもずっと野球です。今はもう野球選手にはなれません。でも、野球があったから、三高野球部でやり抜いたから、今があります」。
厳しい練習を乗り越えたから予備試験、司法試験に合格したなどと、短絡的なロジックではない。大好きな野球に全集中し、無我夢中になった高校生には、どんな困難にも音を上げないタフなハートがある。そのことを、岩切さんは結果でもって教えてくれた。【井上真】(おわり)
◆岩切太輝(いわきり・たいき)1999年(平11)8月15日生まれ、宮崎県小林市出身。小林市立三松小から三松中を経て、日大三高に進学。1浪して東京学芸大に進学し昨春卒業。今春から司法修習生としての生活が始まる。家族は、小林秀峰高校で野球部監督を務める父隆公(たかひろ)さん(52)と母、妹の4人家族。184センチ、86キロ、左投げ左打ち。
◆予備試験(正式名称=司法試験予備試験) 司法試験を受験するには受験資格が必要。予備試験に合格するか、法科大学院を修了する必要がある。予備試験は法科大学院を修了した者と同等の学識を有するかを判定する。司法試験法第5条に基づき毎年1回行われる国家試験。2011年から実施。合格率は約3~4%、最難関の国家試験の1つ。予備試験に合格すれば、およそ90%近い確率で司法試験にも合格すると言われている。




