<センバツ高校野球:智弁和歌山11-10創成館>◇1日◇準々決勝

 創成館の背番号「17」、酒井がホームベース後方でうなだれるようにしゃがみ込んだ。同点に追い付かれた直後の9回2死一、二塁から4番手で登板。三振でピンチを脱したが、直後の10回に逆転サヨナラ打を浴びた。複数投手制を採用し、昨秋の九州大会で初優勝すると明治神宮大会も準優勝。センバツ初勝利を挙げて8強進出と躍進したが、勝利を目前にして敗れた。

 元九州三菱自動車監督の稙田龍生監督(54)は「継投が後手後手になってしまった。9回の最初から酒井でいくか迷った」と悔やんだ。各チーム投手は4人以下が主流だが、メンバー18人中、5人の投手を登録。部員77人の中で、投手25人の大所帯。練習からA~Cの3班に振り分け、競争の中でエース1人に頼らないチームをつくりあげた。

 2回戦 3-1下関国際 川原(6回)→伊藤(3回)

 3回戦 2-1智弁学園 七俵(3回)→酒井(6回)→川原(1回)

 準々決勝は唯一登板がなかった背番号「10」の戸田を先発させ、予定通り4回から継投。伊藤→川原とつなぎ、9回2死まで2点リードしたが、追い付かれ、サヨナラで敗れた。

 かつてエースの先発完投が当たり前だった高校野球界で、3試合すべて違う先発を起用した。ただベンチに入れるだけではなく、全投手の登板順を綿密に計算して送り出す。稙田監督は、社会人監督時代に金属バットを使用していた都市対抗を経験。極度な打高投低の中、小刻みに継投しなければ勝利はなかった。

 「私の中ではピッチャーはリレーするもの。基本的に完投はない。最近は高校野球も大人が金属バットを持ったような打球を打つ。よほどいい投手じゃないと完投は難しい。このスタイルは変えません」

◇  ◇  ◇

 今大会の4強校の中で、3試合連続同じ投手を先発させたチームはない。10年前、08年の第80回センバツは、4強(沖縄尚学、聖望学園、千葉経大付、東洋大姫路)中、3チームは準決勝まで4試合連続エースが先発した。優勝した沖縄尚学の東浜(現ソフトバンク)は、決勝まで5試合4完投、計579球を投げた。完投数は08年が36試合で52完投、今大会は3試合を残し、32試合で23完投と半数以下になった。

 日本高野連は93年に加盟校に複数の投手育成を奨励した。同高野連・竹中雅彦事務局長は「時代の流れになりつつある。障害予防の観点から見ても喜ばしい」と歓迎する。昨夏の甲子園は、登板が1人だけだったのは初戦で敗れた5校だけ。代表49校中、44校は複数の投手が登板した。

 もちろん、ただやみくもに投げさせればいいわけではない。稙田監督は「素直に代わるんじゃなくて、もっと投げたいぐらいの我を出してほしい」と奮起をうながす。夏に向け、さらに強固な複数投手制を目指していく。【前田祐輔】

創成館対智弁和歌山 4回から登板した伊藤
創成館対智弁和歌山 4回から登板した伊藤
智弁和歌山対創成館 5回途中から登板した川原
智弁和歌山対創成館 5回途中から登板した川原
創成館対智弁和歌山 9回途中から登板した酒井(撮影・上田博志)
創成館対智弁和歌山 9回途中から登板した酒井(撮影・上田博志)
3月30日、智弁学園戦に先発した七俵(共同)
3月30日、智弁学園戦に先発した七俵(共同)