ナイター照明がともった夕暮れの甲子園に、小気味いい金属音が響き続けた。47人の選手数にかけて、「SKB47」(スーパー攻撃ベースボール)をテーマに掲げる愛工大名電が、言葉通り15安打10得点で打ち勝った。青学大の「ハッピー大作戦」に影響を受けた倉野光生監督(59)は、8度目の挑戦で夏の甲子園初勝利を挙げた。

 同監督はセンバツでは05年の日本一を含めて12勝を挙げるが、夏は過去7大会連続初戦敗退だった。昨秋は県大会でコールド負け。「時代は変わっている。自分の考えを変えた」と、4月に全部員が生活する寮のルールから一変させた。

 学んだのは箱根駅伝4連覇の青学大と、全国大学ラグビー9連覇の帝京大ラグビー部。「他の競技で結果を出しているチームが同じ共同生活をしている。我々のレベルとは違うけど、うちの選手にもやらせたかった」。両大学と同様に、1年生が担当していた食事の配膳などの雑用を3年生に任せた。グラウンド整備も上級生が率先する。「下級生も遠慮があって難しかったけど、上級生の視野が広がった。大学生がやるんだから、高校にやれないことはない」と言う。

 05年センバツは徹底したバント攻撃で日本一に輝いたが、この日の犠打は0。練習ではロングティーに重点を置き、飛距離を求める指導方針に変えた。今春から練習試合、公式戦で野手に「B(バッティング)ポイント」、投手に「P(ピッチング)ポイント」とポイント制を導入。単打1点、本塁打4点、四球、盗塁、得点も1点で、失策、見逃し三振はマイナス1点。通算ポイントの上位からレギュラーに並べた。

 青学大の原監督は、4連覇のご褒美で選手にハワイ優勝旅行を贈った。倉野監督は100ポイントためた選手の特典として「ハワイは無理だけど、結婚してハワイに行く時は言ってこいと。オプショナルツアーぐらいはプレゼントする」と笑う。前回出場時の13年のテーマは「AMB47」(愛工大名電ベースボール)で、今回は「SKB47」。「前はAKBが全盛期の時代でしたから。今回の総選挙はSKEの松井珠理奈が優勝したんです。名古屋からNO・1が出た。時代は秋葉原から、栄に移ったんです」と変化を感じ取った。

 高校野球も「チェンジ」の時を迎えている。甲子園春夏通算100勝を挙げた龍谷大平安の原田監督は「自分が“キャプテン”になる」と盛り上げ役に徹して、京都大会から選手とハイタッチを交わす。東邦監督時代に「鬼の阪口」と恐れられた大垣日大(岐阜)阪口慶三監督(74)は「仏の阪口」になり、移動バスでは選手とカラオケのマイクを握る。横浜(神奈川)前監督の渡辺元智氏(73)は、口数少ない高校生とのコミュニケーション手段に携帯メールを取り入れた。

 指導者は選手と向き合い、新しいスタイルを模索する。倉野監督は「選手たちには『お前たちで甲子園に行けなければ監督を辞める』と伝えていた。80回大会に初めて出て、20年たってやっと1勝できた」と感謝した。【前田祐輔】