甲子園における選手宣誓の歴史を変えた、84年の福井商・坪井。自分たちで考えたオリジナルの文章を、絶叫することなく語った。それを聞いて「禁断を破った」と思った人物がいる。NHKアナウンサーの小野塚康之(60)だ。

小野塚 当時、話題になりましたね。放送的には、とても評判が良かった。ああやればいいんだよと。

80年の入局以来、40年近く高校野球に携わっている。甲子園の開会式は、春、夏とも「だいたい見ています」。そこで、ベテランアナウンサーの「選手宣誓論」を聞いた。実は、今や当たり前となった独創的な宣誓より、昔ながらのシンプルな絶叫型が好みという。

小野塚 スコアボードをバックに、青空に雲が湧いている。文部大臣か分からないけど、立っている人に向かって手を上げて、大きな声ではつらつと。そういう、僕が小学生の頃の選手宣誓が圧倒的に格好良くて、1回やってみたかった。

長嶋茂雄に憧れ、8歳ぐらいから野球を始めた。その次に憧れたのが選手宣誓だった。その憧れは、野球部でキャプテンを務めた中学で実現する。中2の秋に、運動部全体をまとめる会長に就任。重要な任務の1つが、ライバル校との対抗戦での選手宣誓だった。3年の6月に行われる大会に向け、準備を重ねた。

小野塚 今みたいにユーチューブはないですから。センバツの選手宣誓を一生懸命見て、メモして。同じように宣誓しました。それしか教科書がなかったんで。気持ちよかったですね。もう、声を張り上げまくり。最後まで怒鳴る感じ。先生には「そんなに怒鳴るな」と言われましたね。

名前を呼ばれた後、マイクに向かってどう走るかまで練習したという。それにしても、なぜ、選手宣誓にそこまで憧れたのだろう。

小野塚 宣誓する人が全員の代表みたいな感じがして。たくさんのお客さんの前でも堂々としていた。高校生になったら、ああなれたらいいなと。すごく大人に見えましたね。今見たら、かわいいですけど。

シンプルに絶叫するからこそ、格好良く見えたのかもしれない。では、現在の宣誓のスタイルは、どう映っているのか。「内容も工夫していて、とても立派」と前置きした上で続けた。

小野塚 正直、だんだんと、やり過ぎ感はあるんですよね。本当に生徒たちが思っていることなのか。大人の論理が入っているのか。生徒が大人のまねをしているのか。嫌いな言葉が2つあって「感謝」と「勇気を与える」です。プロ野球選手なんかも言いますね。大安売りっぽくなってきている。もっと純な気持ちをぶつけてくれたらいい。美辞麗句ではなく、シンプルに。今までの宣誓がどうだったか気になるんでしょうけど、プレーと同じで、宣誓も自己ベストでいい。

言葉に敏感なアナウンサーならではの視点でもある。

小野塚 細かいことを言うと、「与える」とは、上の立場から下に向かってのもの。高校生が大人に言うことじゃない。感謝も、身近な具体的な人への感謝を言ってもらった方がいい。

厳しい意見かも知れない。だが、全国十何万人の球児を代表する言葉は「影響力が強い」と考える。だからこそ、昨今の選手宣誓に一家言を持っている。

そんな小野塚にも、強く印象に残る選手宣誓がある。いくつか挙げてもらった。(敬称略=つづく)【古川真弥】

(2018年4月17日付本紙掲載 年齢、肩書きなどは掲載時)