40年近く甲子園大会の選手宣誓を聞いてきたNHKアナウンサー小野塚に、記憶に残る宣誓を順不同で挙げてもらった。

【第83回春(11年) 創志学園(岡山)野山慎介】

宣誓。私たちは16年前、阪神・淡路大震災の年に生まれました。今、東日本大震災で多くの尊い命が奪われ、私たちの心は悲しみでいっぱいです。被災地では、全ての方々が一丸となり、仲間とともに頑張っておられます。人は仲間に支えられることで、大きな困難を乗り越えることが出来ると信じています。私たちに今、出来ること。それはこの大会を精いっぱい元気を出して戦うことです。「頑張ろう! 日本」。生かされている命に感謝し、全身全霊で、正々堂々とプレーすることを誓います。

小野塚 発声、滑舌が完璧で、前日のリハーサルとは別人と思ったぐらいです。1日のトレーニングで、ああいう風にしゃべれるようになったのなら、すごい努力だと感動を覚えましたね。内容も文句なし。「感謝」って言葉は嫌いですけど、野山君が言ったのはいいと思います。染みました。大震災直後で神経を使わないといけない大会。プレッシャーがあったと思うけど、堂々としていた。本当に彼が被災地を代表しているような錯覚を覚えました。トーン、響き、間合い、1語1語大切に、小さい体いっぱいに表現していました。魂と迫力を感じました。


【第69回夏(87年) 金沢(石川)岩井大】

宣誓。私たち選手一同は、高校球児として、強く、雄々しく、たくましく、これまでの練習で培ってきた全てをここに出し尽くし、私たちが戦ってきた仲間たちの汗と涙を糧として、全国の頂点を目指し、あの深紅の大優勝旗のごとく真っ赤に燃え尽き、悔いのないよう正々堂々とこの大会を戦い抜くことを誓います。

小野塚 ちょうど金沢に赴任していた時で、金沢高と交流がありました。今の文言と比べたら稚拙かも知れません。でも、等身大で、かえって好印象でした。普段から「日本一になるんだ」と言ってましたから。でも、燃え尽きたら勝てませんよね(笑い)。


【第59回春(87年) 京都西(京都)上羽功晃】

宣誓。Let’s have fighting spirit, friendship and fair play. 我々選手一同は、若者の持つ情熱と持てる力の全てを発揮し、悔いの残らぬよう、正々堂々と戦います。

小野塚 変化は感じました。英語だから国際的だとは思いませんでしたけど、何でもありになっていく中で、初めてのパターン。新鮮さはありましたね。


【第81回夏(99年) 新潟明訓(新潟)今井也敏】

宣誓。甲子園球場。野球というスポーツを愛する私たちにとって、なんと心に響く言葉なのでしょうか。1900年代、最後の夏。私たち選手一同は、今、この甲子園に集うことの出来た喜びをかみしめています。スタンドで応援してくれる控えの選手を始め、私たちの野球を支えてくれる全ての人たちに感謝し、暑い日も、また吹雪の日も、気力で継続してきた練習を信じ、21世紀に大いなる希望を持って前進するために、全力でプレーすることを、ここに誓います。

小野塚 言葉に節目感がありました。80回大会は過ぎてるし、20世紀最後ではないし、平成も11年だし。キーワードが何もなさそうな中で、すごく工夫してるなと。「宣誓」の次に、いきなり「甲子園球場」。途中で「憧れの甲子園」とかはあっても、憧れも何もつけないで、いきなりは初めてだったのでは。野球好きのおやじにはスッと来た(笑い)。多分、体言止めしてるんですね。来たな、と。心、捉えられました。わしづかみにされた感じ。

第100回大会では、誰が、どんな選手宣誓をするのだろう。(敬称略=おわり)【古川真弥】

(2018年4月18日付本紙掲載 年齢、肩書きなどは掲載時)