夏に向けての総仕上げは、関東遠征だった。前年夏の甲子園で敗れた横浜商(Y校)へ出向いた。完封されたエース古沢直樹も、まだ残っていた。監督の木村賢一が、夜通しでバスを運転して横浜に向かった。

木村 関東遠征は初めてでしたね。遠くても中京まででしたから。なぜ? それはリベンジですよ。負けたままでは悔しい。「古沢を打つぞ」って向かいました。ただ、古沢君は調子が悪かったのか、投げてくれなかったんですよね。

ダブルヘッダーで2連勝した。

谷繁 「もう勝てる」。ひと冬越えて、そう思えるようになった。甲子園で勝てるチームになろうと厳しい練習をやってきて、今度はいけると思えた。

最後の夏を迎えた。島根大会で、谷繁のバットが火を噴いた。

◆2回戦 7-0(7回コールド)安来…谷繁は左中間にソロ本塁打を放つ。推定飛距離130メートル。

◆3回戦 9-0(7回コールド)江津…谷繁は3打席連続ホームランを放つ。1本目は左翼へ2ラン。2本目は中堅へソロ。3本目は左翼へ2ラン。

◆準々決勝 9-2(7回コールド)松江東…谷繁は中堅へ2ラン。

◆準決勝 8-5 平田…谷繁は中堅へ2ランを放つ。推定飛距離130メートル。

◆決勝 9-1 大社…谷繁は右中間にソロを放つ。

5試合連続、大会7本塁打は、ともに今も島根の大会記録として残る。8打数連続安打もあった。大会通算18打数12安打14打点で打率6割6分7厘をマークして、2年連続の甲子園を決めた。

谷繁 ヒットを打つ自信はあったけど、こんなにホームランが出るとは思わなかった。まあ、練習試合でも出てはいたけど…。ところで清宮君の高校通算本塁打って公式戦だけ? 練習試合も入っているんだ。オレは通算38本だけど、練習試合を入れたら、もっと打っているかもしれない。

これほど打ちまくった島根大会でも、1つの教訓を得ていた。3回戦で3打席連続アーチを放ち、続く準々決勝の第1打席だった。

谷繁 ここだけホームランを狙ったんです。4打席連発にしてやろうと。そうしたらファーストフライ。やっぱり狙ったらダメだと、あらためて思いました。

結果を残したという、確固たる自信を持って2年連続の甲子園に向かった。前年も自信はあった。だが、それは全国を知らない、根拠のないものだった。この時は違った。

谷繁 相当練習していたからね。「今年は全国でも戦える」と自信を持って行きました。

本塁打記録を持つ男として、大会前から注目された。抽選会会場では報道陣から本塁打予告を促され「記者の人が、僕に“ホームランを打ちます”と言わせよう、言わせようとするから困ってしまって」とコメントしている。この記事を見つけた谷繁は、声を上げて大笑いした。

谷繁 オレらしいねえ。新聞記者って答えを用意して質問する時があるでしょう。あれがイヤでね。中日の監督時代も、よく「こう言わせたいんだろうけど、オレは言わないよ」と答えてた。高校時代からそうだったんだな。

当時の新聞を見返すと、意外な記事が残っていた。(敬称略=つづく)【飯島智則】

(2017年9月29日付本紙掲載 年齢、肩書きなどは掲載時)