1月に野球殿堂入りした星野は、ハレの壇上で意外なスピーチをした。自分のことは「大したことない」と言ってから「野球界はどうあるべきか、掘り下げて考えたい。我々はアマの卒業生。底辺を広げる。これは大変なんだ」と訴えた。

きれい事だけでは進まない。「都内ではグラウンドを見つけることもひと苦労。環境をつくってあげるためには財源、つまりお金が必要。社会人野球に休部が続いている現状では、企業に出せと言っても、無理なんだ」。つまり、お金を作る方法を考えなければならない。時間をかけ、リサーチを重ねて煮詰めてきた腹案を披露した。

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後発のサッカーはクジをやっている。プロ野球もクジを導入するべきだ。

クジと言うと、すぐ「八百長」「賭博」となる。もってのほかだ。あってはならないことだ。八百長のできないクジの方法は、いくらでもある。

子どもたちにも参加してもらいたい。これは、当たりやすくする。最多勝、ホームラン王、打点王。50人に1人とかが当たる、易しいくじ。上限は1000円だな。お小遣いの範囲でできるように。

大人向けは逆に、深くて難しいクジにする。条件を複雑に絡めて、絶対に八百長が起こりえないもの。例えば、選手がセンターに何本、ライトに何本打ったか。どのチームから、どの球場で、誰から打ったか。ピッチャーも一緒。八百長なんてできるわけがない。一方で、元払いのような、非常に簡単なクジも用意しておく。

集まったお金は、プロ野球は一銭もいただかない。運営費などを引き、スポーツ庁を通じてアマチュア球界の環境整備、強化費に使ってもらう。大きな災害、震災のために、1年で数億円ずつプールしておくことも必ず。細かいところまでルールを作って訴えていけば、実現する可能性が出てくる。

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プロ野球の経営を熟知している。「12球団に理念があっても、実行に移すのは難しい。チームを運営していくだけで手いっぱいになる。もっと野球に興味を持ってもらわないと。『楽天勝ったかな』『菅野、打たれちゃった』ってな。危機感を持って実行に移さないと。本当に終わる」。詳細を詰めて、公の場で発表しようと考えている。

今、強く思う。「足跡を残すということが、何より大事なんだ。今は物事を合理的に考えすぎている。採算とか考えていたら、歴史は作れない」。強豪ではない倉敷商に入学した。甲子園に行けなかった。大学を経てプロに行き、監督として名古屋と大阪を経て仙台にたどり着き、日本一になり、今がある。自分の足跡を振り返れば、歩む先にはいつも、足跡をつけて導いてくれる恩人がいた。

倉商入りを口説いた角田部長。明大入りを勧めた矢吹監督。友。表に出ず、でも先回りして道しるべをつけてくれた母・敏子。高校時代の日々は、星野の人生観にそのまま投影されている。(敬称略=おわり)【宮下敬至】

(2017年11月12日付本紙掲載 年齢、肩書きなどは掲載時)