12年春のセンバツ、高崎健康福祉大高崎は初出場で4強に入った。甲子園後に行われた春季群馬大会、関東大会でも優勝。監督の青柳博文は夏に向け、自信を深めた。だが、大会前に絶対的エースの三木敬太の疲労骨折が判明。チームは県大会4回戦で伊勢崎清明に1-8で敗れた。まさかの8回コールドだった。

青柳 高校野球のエースは先発完投だと、固定観念があったんです。でも、その概念がいろんな可能性を消していた。

青柳は投手1人を見ることから、「投手陣」を見る意識に変えた。今までは見えなかった可能性がパッと開けた。エースといえば「球が速く、フォームがきれいで、かっこいい投手」をイメージしたが、各投手の長所を細かにチェック。従来なら埋没した投手に、光を見いだした。

青柳 球が遅くても、制球が良かったり、タイミングが取りづらかったり。どんな投手でも必ず1つや2つ、いいところが見つかるんです。

9回を「投手陣」で抑えると考えれば、各投手の生きる道が鮮明に見えた。継投の推奨は思わぬ効果も生んだ。毎年、10人ほどの投手が入部するが、これまではチャンスがなかった控え投手の意識が向上。「1回でも、1人でも、チームに貢献したいんです」と目の色が変わった。

主観で交代しないために概念とルールも作った。9回と考えずに、3回を3セットと思考を転換。配置、役割も明確にし、交代のタイミングは投球の限界ではなく、役割を達成した時点だと決めた。

(1)スターター 先発

(2)ミドル ロング、ショートの中継ぎ

(3)セットアップ 抑えへのつなぎ役

(4)クローザー 抑え

(5)エクストラ 延長戦要員(野手も含む)

(6)スウィングマン 中継ぎだが、代役先発も可

(7)モップアップ 練習試合での大量ビハインド

青柳 1人のエースでも、3点くらいは取られる。それなら、それを3人で分け合えばいいんです。疲れも分けられるし、次の試合への影響も全然違います。

基本的に、スターターは2点取られれば交代のタイミングと判断する。「投手陣で3失点」と考えれば、まだ1点の余裕があるのだ。先発は5回が責任回数といったような概念はないから、迷うことなく、スパッと代えられる。

14年夏の県大会、“健大高崎式”の継投は快挙を成し遂げた。決勝の伊勢崎清明戦、3投手の継投でノーヒットノーランを達成し、優勝を決めた。全6試合を5投手の継投で計6失点。4試合が無失点だった。

青柳 もちろん、選手を信頼してはいますが、「この選手なら、打つ、抑えるだろう」と信用すると、うまくいかないことが多いんです。野球以外でも、そうだと思います。

就任間もなかった頃、青柳は1人の部員に裏切られた。ある時、校則で禁止されるピアスを販売する店に入った部員を目撃した。「買うなよ」と忠告。「はい」と答えたが、翌日の持ち物検査でピアスが発見された。部員は先生に「このことは監督も知っています」と言い訳。信用した分、ショックは大きかった。

青柳 指導者が信用しても、自分のいいようにすることがあるんだなと。信用するだけがいいことではないと感じたし、すごく考えさせられた。

青柳は部員の心や考えを知るために、「野球ノート」と題した成長日記を毎日提出させる。「漢字も覚えるし、感性も磨かれる。小論文や文章を書く勉強にもなります」。野球に生かすとともに、大学卒業後に7年間の会社員生活を送った青柳らしく、将来も見据える。1年間で5冊にも上るノートを見ながら、心を通わせていく。(敬称略=つづく)【久保賢吾】

(2018年3月12日付本紙掲載 年齢、肩書などは掲載時)