世の中にこんなことがあるのか、と思いました。すでに一部では知られた話で、大阪本社版のコラムでも当日に書きましたがあらためて触れておきたいと思います。

 3月10日に甲子園球場で行われた阪神-中日のオープン戦は、星野仙一氏の追悼試合として行われました。

 試合前から球場周辺には献花台が設けられ、たくさんのファンが星野さんをしのび、阪神サイドが用意した白いカーネーションをささげました。

 この試合、1回裏に阪神が期待の新加入ロサリオの適時打で先制します。まず1-0。

 阪神の先発投手・秋山は好調で中日打線を4回まで1安打無失点に抑えました。そして4回裏、今度は高山の適時打で阪神が1点を追加。これで2-0となります。試合はそのまま5回を終えました。

 この辺りから周辺にいる記者たちがザワザワしはじめます。「ネットでもそんな話になっていますね」。ヒソヒソとそんな会話も聞こえてくる。そういうことをネットで探すのは苦手なので、つい聞いてしまいます。

 「どないしたん?」

 若い記者が愉快そうな顔で教えてくれます。

 「スコアボードをよく見てください。阪神のスコアがセンイチになっていますよ」

 1回裏に1点、2、3回がゼロで4回裏に1点が入って…。「1001」。確かにセンイチやないか。

 理解した瞬間、思わず空を見上げてしまいました。オープン戦にもかかわらず3万2165人もの観客が入った甲子園球場。その空の上で星野さんが「どうや。オレはここにおるぞ」と笑っているような気がしました。

 ともに古巣の阪神、中日のいずれにも勝敗がつかず、試合は引き分けで終わりました。それにしても「1001」か。偶然、いや必然でしょうか。こんなことがあるのか。金本監督に聞いてみたくなりました。

 試合後、自分のスコアブックを示しながら、感想を聞きます。

 「おおっ! すごいな! オレ、気づいてなかったわ。センイチか。仙一…。でも仙一さんだよね。だから、この辺に3(さん)が入ってほしかったですね」

 金本監督はそう言って「0」が書かれた7回裏を指さしました。確かにそれなら阪神が勝っているな…。

 星野さんを慕う金本監督だけに呼び捨てなどもってのほかということでしょう。それにしてもウイットに富んだ返しに思わず、笑ってしまいました。

 この姿も、いいなと思いました。少々どぎついこともありましたが、大人の軽口で、いろいろなことを話す。それが闘将・星野さんのスタイルでした。

 その姿を踏襲しようとしているわけではないでしょうか、金本監督も徐々にプロの監督として雰囲気が出てきています。

 みんなが「阪神を見守っていてください」と願う星野さん。「そんなもん、当たり前やないか!」とスコアボードの上で答えてくれたようで、なんだか気持ちのいい日になりました。