11日のWBC1次ラウンド、チェコ戦。佐々木朗希の先発で盛り上がった一戦で、それはいきなり起きた。

1回表2死二塁、平凡な遊ゴロに仕留めた佐々木。ベンチに戻ろうとした時、予定外の出来事が…。ショートで先発出場した中野がていねいに捕球したあと、一塁に悪送球ではないか。これでいきなり1点を許すことになった。

その直後、ネットがザワついていた。中野の失策に、多くのコメントが流れた。

「やっちまったな。でも阪神ファンには見慣れた光景。驚きもない」

「さすが岡田監督。中野の二塁へのコンバートがいかに正解かを証明するエラー!」

ネットは敏感に反応する。これについていけない世代だけど、阪神ファンはやはりシビア、ということを改めて知ることになった。

侍ジャパンの正遊撃手、源田が故障で、中野が代役になった。重要な役回りとなったスタート。そこで出たミスに、ジャパンファン、阪神ファンから厳しい声が沸き起こった。

さてさて岡田彰布がどう見たか。元のポジションで犯したミスである。何とも複雑な気分だったと思うが、岡田は間違いなく、割り切っているはず。そんなん、ショートを守ってのエラーやろ。もう本職は二塁なんやから、気にしても仕方ないやん。

まだ岡田の反応は聞けていないが、多分、こんなことを口にする、と想像する。もちろん、失策は犯してほしくなかった。でもミスを引きずらず、ジャパンに貢献してくれ。それくらい、切り替えないと、戦いには挑めない。

阪神で中野の二塁コンバートは、すべて中野を生かすための戦略である。岡田が前回監督時、藤本(現コーチ)をショートからセカンドに変えたのは、鳥谷ショートの前提があった。だが今回は、あくまで中野をさらに生かすための方策。小幡、木浪のどちらかがショートのポジションにつくけど、それを前提にした中野コンバートではない。それほど中野の能力を、岡田は高く評価している。

ルーキーでいきなりレギュラーをつかんだ。それを評論家時代の岡田はこう評している。「そら立派よ。いきなりレギュラーを取れる力がある。それとともに、これまでの選手は何しとったんや、と思うわ。木浪や北條、新人に簡単にやられるって、情けないし、何しとんねん、ということやろ」。辛辣(しんらつ)なコメントとと同時に、中野を認める発言をしている。

それを今年、ショートからセカンドにコンバートした。それは二塁というポジションを、非常に重要視しているから。「いまの野球において、セカンドはショートと同じくらい大事なポジション」と言い切る。岡田自身、現役で守った定位置。愛着があり、こだわりがある。

昔、セカンドベースマンには名プレーヤーが多くいた。岡田と同時期に競ったのは巨人篠塚、大洋高木豊、広島正田、中日上川、ヤクルト角といった面々。「そらいい選手ばかり。だからゴールデングラブ賞も取れなかった」と振り返るように、守備のタイトルは1度だけ。レベルの高い守備競争が繰り広げられた。

当時は守るのも大変だった。例えば併殺プレーで5-4-3、6-4-3で二塁に入ると、走者は併殺つぶしで強烈な走塁できた。これが当たり前の時代で、それを瞬時にかわし、身のこなしとともに、踏ん張って送球する足の強さと肩が必要だった。これがなければ簡単にケガをする。

そういう戦いを生き抜いてきたからこそ、岡田は二塁を大事に思っている。「ゲッツーを確実に取れること。2つアウトを取るところを、ひとつしか取れないで走者を残す。これを避ける。それには二塁手よ」となる。

近年、どのチームもいい二塁手が多くいる。広島が3連覇した時の立役者のひとり、菊池であり、連覇のヤクルトには山田が。DeNAには牧がいて、巨人もようやく吉川が定着した。

そんな中、阪神は中野でいく。「攻撃力がある。あの打撃は必要だし、守備もセカンドに移ることで、必ず良さが出る。中野を大きく生かすためのコンバート。これは彼の今後にも生きてくる」。中野の力を認めているからこそ、の言葉が並ぶ。表立っては言わないけど、岡田の本心が見えてくる。

自らも外野からセカンドにコンバートされた。コーチに藤本。岡田がセカンドに変えた選手がいまはコーチだ。中野にはこれ以上ない環境。経験談に触れ、中野が名二塁手になる土壌がそこにある。

阪神内野陣のキープレーヤーは間違いなく中野になる。岡田が平田(現ヘッドコーチ)と作り上げたコンビネーション。これと同じように中野が小幡(木浪?)をリードして、二遊間コンビを強固なものにしていく。WBCでのショートのエラー。忘れてほしいし、切り替えればいい。WBCが終われば、公式戦、中野はぶっつけで挑むだけだ。【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)