優勝決定後、久しぶりに岡田彰布と話した。その前に番記者から「ご機嫌斜めですよ」と聞かされていた。ここのところの試合内容、そして結果。岡田は確かに不機嫌だった。とにかく得点が少ない。原因はつながりの悪さだ。タイムリーが出ないのだからどうしようもない。

「まあ、これから立て直していくしかないわ」。苦笑いの岡田に、こんな質問をしてみた。「監督が選ぶとしたら、MVPは誰?」。これはなかなか答えづらい問いだと思う。監督として1人に決めるのはどうなのか。「ウーン、難しいわな。野手、投手、候補はたくさんいるけど、そうやな、あえて選ぶとすれば…」と悩んだ末に出てきたのが。「中野かな。アイツはすごいよ」と明かした。

MVP=最高殊勲選手。1年という長い期間で、最もチームに貢献し、他を圧倒する活躍を残した選手に贈られる名誉。ほとんどが優勝チームから選ばれるのだが、今回の阪神。候補が多すぎて、かなり記者投票はばらけるとみられている。

野手では大山、近本、中野、木浪といったところで、投手なら岩崎、大竹、村上。何というか「帯に短し、たすきに長し」といった様相。決め手に欠けることもあって、ひょっとしたら、優勝チーム以外から選ばれる可能性も…の声があるほど。

そこであえて岡田が「中野」と挙げた理由はやはりコンバート1年目でありながら、ソツなくこなし、2番打者としてベストに近い役割を果たしたこと。何よりフルイニング出場(多分、完結するはず)が大きい。これはチームで唯一のこと。「守備もそうだし、バッティングもコンスタントに結果を残したし」。岡田は昨年までネット裏から観察していた。中野の印象は「なんでそんなに早打ちなんや」だった。これは近本にもいえることだったが、カウントの浅い段階から、どんどん振っていた。「そこの意識を変えれば…と思っていたわ。それを少し話したんだけど、いまを見てみ。簡単に追い込まれても、平気な顔してるやろ。そこから粘れて、自分のカウントにもっていけるようになっている」。それは近本にも通じることで、打席の中での空気、振る舞いが大きく変化した。「追い込まれてからも、ハイ、いらっしゃいという感じで、余裕があるもんな」と岡田は成長を認めている。

そこで、あくまで個人的な意見としてMVP中野を挙げたのだが、他の勲章には手が届くのか。まずベストナインは強力なライバルが二塁手にいる。DeNAの牧である。数字的には他を寄せ付けないものがある。

次にゴールデングラブに移ると、ここにも名手が2人。広島の菊池、巨人の吉川である。ここも票が割れるに違いなく、中野には厳しい状況といえる。

となれば、是が非でも取ってもらいたいタイトル。それが最多安打なのだが、これも最後の最後まで分からぬ展開。9月27日現在で中野が1本差でトップにいるが、中日岡林、DeNA牧も、ここまで来れば、狙いにくる。いまの時点で残り試合は阪神、DeNA,中日とも4試合。条件的には五分となっている。

阪神の残りの4試合、広島と2試合、ヤクルトと1試合、そしてDeNAと1試合。直接対戦で勝負を避けるとは考えにくいが、中野にとっては広島との2試合で、どれだけヒットを稼げるか、がポイントとみる。フルイニング出場を続け、優勝に大きく貢献して、最高の1年になるのは間違いないが、そこに花を添えるタイトルを。好漢中野に、安打の神が降りてくることを、願うのだが…。【内匠宏幸】

(敬称略)

試合前の練習でリラックスした表情を見せる阪神中野(2023年9月27日撮影)
試合前の練習でリラックスした表情を見せる阪神中野(2023年9月27日撮影)