<イースタン・リーグ:巨人4-6DeNA>◇21日◇東京ドーム

昨年まで中日2軍バッテリーコーチを務めた日刊スポーツ評論家・田村藤夫氏(60)が、無観客試合が続くファームに足を運び、若手選手を中心に現状をチェックする。21日の巨人-横浜戦(東京ドーム)では、巨人ドラフト5位ルーキー山瀬慎之助捕手(19=星稜)に注目した。

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奥川とバッテリーを組んでいた山瀬がどんなプレーをするのか、楽しみにしていた。この試合、スタメンマスクをかぶった山瀬は何度もあったワンバウンドをすべて止めていた。プロ入りして半年。しっかり練習を積んできたことはうかがえた。

試合の中では3回走られ、1度刺している。スローイングを見て、トップから投げるまでの動作が速いと感じた。プロでは捕球してからセカンド到達までおよそ1秒9が目安となっているが、スピーディーな動きは、速さだけで言えばそのレベルにある。地肩の強さに加え、投球動作の速さは武器になる。

さらにレベルアップを目指すには、送球の正確さになる。初回に許した盗塁の場面では、捕手から見て、送球はセカンドベースの左側だった。7回の場面では、投球が高めだったため、山瀬も上体が立っており、そのまま送球。そのため、送球も高めに抜け、アウトのタイミングも、タッチができなかった。

送球の原則は低めに投げること。高めの送球と、ベース左側への送球は、盗塁阻止にはノーチャンス。こうした基本的なことは阿部慎之助監督や実松一成バッテリーコーチが日ごろから教えているはずだから、意識を高く練習を積んでいけば、とっさの動きになる試合でも、そうした技術は身に付くはずだ。

気になる点はランナーがいる時の山瀬の構えだった。両足のかかとが地面についており、いわゆるベタ足になっていた。なぜそれが気になったのかというと、初回にパスボールをしていたが、決して捕れないボールではなかった。ピッチャーの指にかかり過ぎたのか、横にそれるボールだったがノーバウンド投球。山瀬の動きなら捕れるボールに見えた。

原因は何か?と見て気になったのがベタ足だった。ランナーがいる時はどちらかの足は地面から離している方が、動きやすくなる。横にそれたボールへの対応が遅れ気味になるのは、ベタ足も要因としてあるのでは?と感じた。ランナーがいる時は、どちらかのかかとを地面から離していれば、より一層動きは良くなる。そこは、自分でも気にしながら取り組めば、動きの違いも実感できるようになるだろう。練習では止められるボールも、とっさの動きで対応するためには、細かいところから意識することが大事だ。

山瀬は非常に恵まれた環境で、捕手としてのプロ生活をスタートした。それは、阿部監督がいて、プロでも実績を積んだ実松バッテリーコーチがいるからで、打撃面についても、配球についても、どんどん聞いて学べる。捕手として最高の環境と言える。私は現役時代、日本ハムのバッテリーコーチに多くを教えていただいたが、同年代で活躍したヤクルト古田敦也は野村克也さん、西武伊東勤は森祗晶さんに鍛えられた姿を、うらやましく感じたことが何度もあった。山瀬は、お手本にすべき大先輩が、指導者として身近にいる。捕手というポジションとしては、もっとも大切なことだ。

高卒1年目からうまくいくことはない。これから実戦の中で多くを学んでいくことになる。バッティングキャッチング、ブロッキング、スローイング、そしてリード。これからより高いレベルで鍛えられていく。ソフトバンクの甲斐(170センチ、84キロ)は育成からスタートして球界を代表する捕手になった。山瀬(177センチ、82キロ)には大きな可能性がある。ファームの試合を見てそう感じた。

プロ生活は始まったばかり。将来が楽しみな素材であると同時に、今は課題を確実に克服していく時間と言える。大きな期待をかけず、冷静な目でこれからの捕手山瀬を見ていきたい。(日刊スポーツ評論家)