<イースタンリーグ:DeNA-楽天(5回表1死降雨ノーゲーム)>◇1日◇バッティングパレス相石スタジアムひらつか


選手として日本ハム、ロッテ、ダイエーで21年間、コーチとしてソフトバンク、阪神、中日などで21年間(うち1年間は編成担当)、計42年間のプロ野球人生を送った田村藤夫氏(61)は、DeNA育成1位左腕・石川達也投手(23=横浜-法大)の“腕の振り”に注目した。

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試合開始前のピッチング練習を見て「しっかり腕を振っている」と感じた。それは名鑑でプロフィルを確かめ、育成という情報を得た上での「育成としては」という評価だった。むしろ、楽天の先発ドラフト2位、同じ法大卒の高田孝一投手(22=平塚学園)に注目しようと思っていた。同じ法大卒の同期入団の先発。育成1位とドラフト2位、知らず知らずのうちに多少の先入観を持ってピッチングを見ていた、ということだ。

やがてピッチングの本質的な部分で石川の方に興味が移る。変化球の時に腕が緩まない。ストレートと変化球で腕の振りが変わらない。高田はカーブを投げる時に腕が緩む。石川は同じカーブでもストレートと同じ腕の振りができていた。球威は高田が最速149キロでボールに力はあった。石川は最速143キロ。それほど速いとは感じない。しかし、腕の振りが球種にかかわらず一定しているため、打者は緩急を感じると想像できた。

野球ファンならみんなが知っていることだが、バッターが一番打ちづらいのはストレートと変化球の腕の振りが同じ投手だ。緩むというのは独特の表現でわかりづらいかもしれない。ストレートの腕の振り方が強く、鋭いとするなら、緩むというのは、変化球を投げる際、ストレートの時よりも若干肩の回転、腕を振り下ろす時の勢いが弱くなる、と言えば少しはイメージできるのではないか。

これが打者からすればフォームのちょっとした違いとしてヒントになる。ストレートと変化球の違いとして備えができる。この備えの有無ではバッティングに大きな違いが出る。備えができなければタイミングは取りづらくなる。楽天の岸のピッチングがいいお手本だ。素晴らしいカーブを持っており、ストレートと同じ腕の振りでカーブで打者を仕留めている。

この試合での石川は対右打者にカーブを有効に使っていた。数球ではあったが、右打者の外角から中に入ってくるコース、中からインコースに差し込むコースでカウントを取っていた。打者からすればストレートと同じタイミングで投げるカーブにはタイミングを合わせにくく、見逃してカウントを取られていた。3回1/3を投げて1安打無失点。四球を1個与えているが、制球を乱して大きく崩れる内容ではなかった。

高田は5三振を奪っていた。ストレートで3三振、カットとカーブでそれぞれ1個ずつ。ただ、変化球はほぼワンバウンドになる明らかなボール球。初回の途中から変化球を見極められ、ストレートを狙い打ちされて3安打で2失点。

試合は5回降雨ノーゲーム。最後まで見たかったが、若い投手の特長と課題が見られたのは収穫だった。高田には、石川のピッチングからいかに腕の振りが大事なのかを学んでほしい。プロに入る素質ある素材の中にも、腕が緩む投手は結構いる。それを克服するためには、投げて投げて時間をかけて自分のものにする投手と、最後まで腕の振りに苦しむ投手とに分かれた。高田を生で見るのははじめてだったので、たまたまこの日腕の緩みが顕著に出ていたのかもしれない。また見る機会があれば、どこまで改善されているか、しっかり見たい。

石川については何点か課題がある。カーブを投げる時の腕の振りはこのままでいい。ただし制球をさらにレベルアップすることだ。今はストライクを取れるという制球だが、これからは四隅でストライクを取る制球を身に付けなければならない。球威も150キロは無理にしても、あと3~4キロはアップが見込める。

ボールのキレを出せるよう、さらに下半身を鍛え、下半身と上半身が連動して投げられるように。この日はチェンジアップが非常によく抜けていた。体を鍛えて球威が増せばさらにチェンジアップが有効になる。カーブとチェンジアップがカウント球になり、それぞれのボールのキレを増していけば、支配下選手も見えるだろう。

法大卒の同期にはロッテのドラフト1位鈴木昭汰投手(22=常総学院)もいる。鈴木はすでにプロ初勝利を挙げている。石川からすれば負けられない気持ちも、焦りもあるかもしれない。そんな想像も踏まえての助言だ。石川にはプロで勝つために必要な腕の振りがある。私は21年間、捕手として生きてきた。その経験から、この武器はとても大切だということは、重ねて言っておきたい。(日刊スポーツ評論家)