12日の高校野球埼玉大会で花咲徳栄に0-32で敗れた杉戸農は、翌13日に部員全員で部室を清掃した。1、2年生は3日間のオフで、引退した3年生はそれぞれの進路に向けて動きだした。

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吉原亨監督(59)は花咲徳栄戦前、硬さを取り除こうと「30点以内ならお前らの勝ちだ」と選手を送り出した。

3回まで5失点と、“敗戦ライン”を大きく下回るペースで試合を進めたが4、5回に大量失点。終わってみれば30点を超えた。

試合後、吉原監督は「2点負けちゃったな。でも、それぞれよかった。続けてきてくれてありがとう。やってくれてありがとう」と、ナインに声をかけた。

小学5年時に有馬記念を観戦し、競走馬の育成をしたいと杉戸農に入学した阿部渓斗主将(3年)は「こんなキャプテンについて来てくれて…。みんなが支えてくれた。最後まで守ってくれた…。これまでで一番の思い出です」と号泣しながら仲間への思いを口にした。北海道の農場に就職予定で、「G1で勝つ馬を育てたい」と新たな道へ、視線を向けた。

吉原監督は、今年で勇退する。「公立高校は働き方改革とかで厳しい。特にうちみたいな学校は部員を集めるところからだから」と言った。実習で部活の開始時間に間に合わないなど、農業高校ならではの難しさもある。練習は「今日は何人いる?」から始まる。

いろいろな形の高校野球がある。全国制覇を目指す高校もあれば、単独チームでの公式戦出場を目指す高校もある。この試合は吉原監督が試合前に選手に言った通り、「横綱と入門したて」の戦いだったかもしれないが、互いに尊敬の念を持ち全力でぶつかり合った。この経験は彼らの大きな財産になるはずだ。選手にとっても吉原監督にとっても、思い出深い最後の夏となったに違いない。【佐藤成】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

ピンチでマウンドに集まる杉戸農ナイン(2019年7月12日撮影)
ピンチでマウンドに集まる杉戸農ナイン(2019年7月12日撮影)