来秋ドラフト候補の滋賀学園・阿字悠真(あじ・ゆうま)投手(2年)には、二人三脚の夢がある。「いけたら高卒でプロを目指しています」。自分だけの夢ではない。

2カ月に1回、約束を交わす。自身の“師匠”こと父の大作さん。東近江市内にある寮の前やグラウンドで、大阪から訪れる父と約束を確かめ合う。「『絶対プロに行けよ』と常日頃、言ってくれます」。大作さんは、習志野-東北福祉大と進み、社会人野球の名門・日本生命で主力投手としてプレー。現役時代は同じようにプロ入りの夢を追っていたという。「2人の夢です。喜ばせたいです」。父もかなえられなかったゴール。2人で1つの目標を追っている。

2歳で母・英美さんを病で亡くした。記憶はおぼろげだ。「土日に(父と)一緒に練習するのが楽しみで。小学校のグラウンドでソフトボールをしたりとか」。寂しさを埋めてくれたのが、大作さんの影響もあって始めた野球。物心つく前からボールを握り、投手一筋と父譲り。小、中と大作さんがコーチを務めるチームでプレーした。「投手は軸が大切」と教え込まれ、自宅でも父考案の体幹トレーニング。投手としての基本を大作さんからたくさん吸収し、東住吉リトルシニアに所属した中学時代には、国際大会の関西選抜に選出される投手へと成長した。

「近江を倒したら面白いと思って」と打倒を胸に、大阪から滋賀学園へ進学。エースナンバーを背負ったこの秋、その目標を実現。最速146キロの直球と気持ちの強さを前面に押し出す投球スタイルを武器に、秋の県大会全5試合に登板。3回戦から4試合連続完投とフル回転し、待ち焦がれた近江との決勝戦は、9回6安打4失点で完投勝ち。ライバルを5-4で下し、近畿大会へチームを導いた。

4年ぶりのセンバツをかけた近畿大会では、課題と直面。初戦で優勝した智弁学園(奈良)に延長10回の末、3-2でサヨナラ負け。制球が安定せず9四死球、球数も195球を要するなど欠点が露呈。「打たせて取る投球も覚えないといけない。忘れられない試合になりました」。失敗を糧に、この冬は制球力の向上、体作りと課題ととことん向き合う。「滋賀ナンバーワンは阿字だと思ってもらえるようにしたい。春も夏も全部倒して、甲子園に行きたいです」。穏やかな表情で、紡ぐ言葉には強い意志がこもる。甲子園、プロ入り。掲げた目標は全て実現する。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)