女性の野球界への進出が目覚ましい。ついにMLBの傘下マイナーリーグ球団で初めて、女性監督が誕生する。

レイチェル・バルコベック氏(34)が今季から、ヤンキースの1A「タンパ・ターポンズ」の監督に就任する。12年に臨時ストレングス&コンディショニングコーディネーターとしてカージナルス入りして10年が経過した。その後、アストロズやオランダ代表チーム、トレーニング施設の「ドライブライン」などで経験を積み、19年からヤンキース入りし、マイナーの打撃コーチを務めていた。昨年はエンゼルス大谷翔平が出場した球宴の前座試合「フューチャーゲーム」で一塁コーチを務めただけに、姿を見たことがある人もいるかもしれない。

8日にはオーストラリアのトップリーグで初めて女性選手が誕生したばかり。左腕のジェネビーブ・ビーコム投手(17)がデビュー戦で1回無失点と好投し、歴史に名を刻んだ。17年にはブレーブスのロナルド・アクーニャ外野手(通称アクーニャジュニア)が派遣されたほどのレベルにあるリーグ。直球の最速は135キロという左腕は、相応の実力を備えている。

大リーグでは20年にキム・アング氏がマーリンズで初の女性GMに就任した。21年はビアンカ・スミス氏が、レッドソックスのマイナーで黒人女性初のコーチとなった。「ガラスの天井」を次々と破っている。日本球界では昨年、北京五輪のソフトボール日本代表だった乾絵美さんがオリックスのスカウトに就任。DeNAの林優衣トレーナーは、1軍のS&C(ストレングス&コンディショニング)担当としてベンチ入りしていた。21年は女子高校野球が甲子園で選手権決勝を行い、巨人は女性チームを創設した。

バルコベックさんはプロ球界に入るため、苦労したようだ。シアトルタイムズによると、13年には運動用衣料品の店員をしながら15球団のコーチ職に応募したが、反応はなかったという。履歴書の名前を女性にありがちな「レイチェル」から男性風の「レイ」に変えた。経歴を「NCAA(全米大学体育協会)の1部のソフトボールの捕手だった」から「NCAA(全米大学体育協会)の1部の捕手だった」にした。ソフトボールが女性をほうふつさせるからだ。

出身地のネブラスカ州は、MLB球団がないこともあり、野球が盛んではない。私事だが、娘は先月までネブラスカの大学に留学していたが、周囲の人間は1人も大谷翔平を知らなかったという。バルコベックさんも、プロ野球に興味を抱いたのはニューメキシコ州での大学時代。デートした男性がドジャースにドラフト指名されたからだという。

ドライブラインでは、打者の目線や投手の股関節の動きについて研究していたという。一方で、元ソフトボール選手だけあり、打撃投手を務めている映像もあった。アストロズ時代にはラテン系の若手選手と話すためにスペイン語を習得。2つの修士を持つ秀才だが、理論だけでなく選手とのコミュニケーションにもたけている。昨年、ルーキーリーグで指導した有望株のジェイソン・ドミンゲス外野手は1Aに昇進。結果的に今季も指導を継続することになった。また1つ、新たな歴史をつくったバルコベックさんには、いずれメジャーリーグの監督を務めてほしい。【斎藤直樹】

◆レイチェル・バルコベック(Rachel Balkovec)1987年7月5日生まれ。米国ネブラスカ州出身。スカットカトリック高校ではソフトボールとサッカー、バスケットボールをプレー。クリーグトン大とニューメキシコ大ではソフトボールの捕手を務めた。運動生理学の学位、ルイジアナ州立大でスポーツマネジメントの修士号を取得。18年にオランダのフライエ大で人間運動学の修士号。19年にヤンキースでMLB傘下で女性初の専任打撃コーチ就任。

レイチェル・バルコベックさん(AP=共同)
レイチェル・バルコベックさん(AP=共同)